スパイラル・アライヴ 第一巻
○第一話 あなたならどうしますか?
この作品は『スパイラル〜推理の絆〜』のサイドストーリー、2年前から始まる物語ですね。『スパイラル・アライヴ』。なんで『アライヴ』なのかは置いておきましょう。僕の作品『ザ・スペリオル』の『ザ』と同じようなものなのでしょうし。
とりあえず最初のアオリ文(?)を抜粋してみるとします。これがかなり格好いいのですよ。
警視庁に「名探偵」と呼ばれる男がいる。
男の名は鳴海清隆。
誰もが彼に不可能はないと信じ、
ひとたび彼が立つなら、たとえ悪魔でさえも、
真実の裁きに倒れると思われた。
彼は何よりも強く、何よりも高い。
鳴海清隆は警視庁にいる――。
――『それ』が始まった時は、まだ。
とまあ、こういう文章です。初めてこれを読んだときはゾクリときましたよ。いや、本当に。それなのに、まさかたったの六話で連載が中断されるとは……。まあ、また始まったからよしとしてますけどね。
……話が逸れました。しかし、あの格好いいアオリ文(?)の合間にこの物語のヒロイン(と思われる)関口伊万里の、友人に向けた怒鳴り声が入っているというのはいかがなものでしょうか。しかもそのあとに続くセリフが、
「あたしの狙ってたピザまんをよくも横取りしたなあ!」
ですし。しかしこの友人二人(茜と萌黄)もけっこうイイ性格してます。ノリがいいというか、なんというか。でもなんでこの二人、苗字がないのでしょう。
それにしても、連載第一回目だというのに、伊万里の暴走ぶりはすごいものがあります。猟奇殺人でもやらかすようなセリフを6ページ目から吐いています。思えばこんなヒロインも珍しい。
そしてこの物語の名探偵役である(最近ちょっと存在がかすんでますけど)鳴海清隆を目指す少年、沢村史郎の登場です。ベタな展開にベタなシチュエーション。でも伊万里が沢村に恋愛感情を持つきっかけを作れればそれでよし、といった空気が漂っている気がします。まあ、王道的とも言えますし、王道的な展開の作品もたまにはいいです。
それからしばしのときが経ち。いざ告白、となります。正直、この辺りの感情の動きのすっ飛ばし方はすごいものがあります。でもお約束ですが、告白はできません。沢村が退学してしまいます。なんでも鳴海清隆に近づくためだとか。清隆はこうして一人の少年の人生を(間接的に)狂わせたのですね。しかもその後の展開を見た限り、清隆はそれを計算してたっぽいので、清隆にも沢村の人生を狂わせた自覚はあることでしょう。……きっと。彼のことですから、微塵も『悪い』なんて思わないのでしょうが。
人でなし清隆のことは置いておくとして。これまたお約束といった感じで謎の美少女が登場します。そして心中で呟きます。
――『狩り』のときには使えるかもしれない。
クールビューティーな人は思考が怖いです。誰か殺す気まんまんです。皆さん。クールビューティーには関わらないほうがいいですよ。きっと寿命が縮みます。
そんなこんなで四月。伊万里たちは晴れて高校2年生になりました。でも彼女の気持ちは晴れません。愛しの沢村はアマゾンにいるそうですし、当然と言うべきでしょう。しかしそこは伊万里、ただの女の子ではありません。落ち込みまくったうえにものすごい暴走を始めます。
「ほほほほほ。どーせあたしはピエロよ。運命にもてあそばれる、あわれなピエロ!」
……このセリフのセンスは素直にすごいと思えますね。もはやギャグマンガになりつつあります、『スパイラル・アライヴ』。
それはそれとして、再び登場です、クールビューティーな美少女、雨苗雪音。一瞬、惨劇の予感がしましたが、そんなものは起こらず、ただ伊万里と邂逅を果たしただけに終わります。しかしこの二人、気が合わなさそうだなぁ。
翌日。萌黄が読者にとっては今更な情報を提示します。いわく。
「鳴海清隆というのは刑事らしい」
本当に今更な情報です。『スパイラル〜推理の絆〜』を読んでいる人からしてみれば、必要のない情報です。でもそこはそれ。本編を読まずにこの作品を読んでいる人への配慮です。僕もこれくらいの配慮は必要だと思いますし、同じ立場に立たされたら絶対にこの情報は提示します。
さて、そんなこんなで伊万里と雨苗、二度目の邂逅です。雨苗、どんな目的があるのかは知りませんが、沢村が日本にいることを伊万里に伝えます。そして雨苗から「沢村に渡してくれ」とオルゴールを託される伊万里。それを持って早速沢村に会いにいきます。残酷な現実を知らされるとも知らずに。
ようやく沢村と再会出来た伊万里。会話を繋げるためにまず雨苗から預かっていたオルゴールを渡します。そして伊万里、沢村の口から決定的な言葉を聞いてしまいます。それは、
「まだそんな長くないけど、つきあってる」
ここでナレーション(?)が入ります。
――さて、伊万里の恋はどうなるのでしょう。
シーンは変わって夜の公園。オルゴールから流れる音楽が空気を震わせる夜中の公園にひとりの美少女が立っています。そう。その美少女はクールビューティー・雨苗雪音! この人が出てくる度に惨劇の予感を覚えるのは果たして僕だけなのでしょうか。
ともあれ彼女の足元にはナイフで腹の辺りを突かれた死体が。……死体が!! 大変です。ついに惨劇が起きてしまいました。そして雨苗がポツリと一言。
「……『狩り』の始まりだ」
……こんな人には身近にいてほしくないですね。つきあっている沢村には本気で同情します。まあ、すべては清隆が企んだことなのでしょうけど。
「沢村。あなたが鳴海清隆を目指すのなら、私を止めてくれ――……」
彼女のその呟きをもって、第一話は幕を下ろします。この頃、『スパイラル・アライヴ』は隔月連載だったので、僕は次回までの間が長いことに絶望しかけながら日々を送ることになるのですが、それはまた、別のお話。
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