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ただ、そっとしておくことしかできなくて……



 アリアハン王立アカデミーでの講義を終え、わたし――リザは教室で帰り支度をしていた。それはもう、大急ぎで。
 というか、アレルも同じ教室で同じ講義を受けていたんだから、待っていてくれてもいいのに。まったくもう、恥ずかしがりやなんだから♪

 ……コホン。まあ、別にアレルが先に教室から出て行ったのは、わたしと一緒に帰るのが恥ずかしいから、というわけではないのだけれど。

 あれから――アレルのお父さんであるオルテガさんの訃報を知ってから、もう四年のときが過ぎていた。ここまで時間が経ってしまうと、もうオルテガさんがどこかで生きている、なんて心から思えるわけもなくて、もうオルテガさんは死んだものだと思って、わたしは日々を過ごしている。

 そうしているのは、きっとわたしだけではないだろう。アレルのお母さんのマリアさんも、ルイーダ母さんも、それは認めざるをえなくなっている。そしておそらくは、アレルも。
 もちろん、アレルはオルテガさんが死ぬわけがないとことあるごとに言っているし、基本、そのことで落ち込んだりもしないけれど、でも……。

 帰り支度を終えて、急いで教室を飛び出そうとしたその瞬間。廊下の窓から空を眺めているアレルを見つけた。その瞳に宿る色は、あまりにも悲しそうで……。

 そんなアレルを見るたびに、わたしは思ってしまう。強がらなくてもいいのに、と。たまにはわたしに頼って欲しい、甘えて欲しい、と。
 でも、アレルは強いから。ここに通う男の子の中で誰よりも、強いから。見ていて切なくなるほどに、強いから。
 だから、わたしに弱みをみせることは、絶対にしない。

 ……知っているのに。アレルは毎日、ここから見えるナジミの塔でゼイアスおじいちゃんと剣の修行をしているって、わたしは知っているのに。

 それはすべて、16歳になったときにオルテガさんを探す旅に出るために。……正確には、オルテガさんの仇を討つための旅に出るために。
 だから、わたしも僧侶の修行をしている。いや、それどころか魔法使いの修行まで並行してやっている。アカデミーで教えてもらえることはすべて学びきってやろうと思っている。アレルが旅立つとき、その隣にいていいわたしでいられるように。
 ……まあ、そうやって勉強していたら、アリアハン中の大人たちからいつの間にか『アリアハン王立アカデミー始まって以来の天才児』なんて呼ばれるようになってもいたけれど。いや、そもそもそう呼ばれたのって、躍起になって勉強し始める前だった気もするけれど……。

 でも、そんな肩書き、正直言ってわたしは望んでいない。わたしが望むのはただ『アレルの隣にいて支えになれる女性でいたい』という、ただそれだけだから……。

 アレルが寂しげにひとつ嘆息する。そして胸元からじゃらりと鎖を取り出した。そこにはオルテガさんの結婚指輪が通されている。
 アレルが6歳のときにもらったという、マリアさんからの――オルテガさんからの誕生日プレゼントのネックレス。それをギュッと握り、アレルは再び空を見上げた。口を小さく動かしながら。

 もちろん、アレルがなにを言ったのかはわからないけれど。その光景は、いつもわたしの心を締めつけた。アレルに慰めの言葉ひとつかけられない自分が、いつだってひどく無力に思える。

 アカデミーの生徒たちが教室からまばらに出てきた。アレルのほうを見て、一瞬、気の毒そうに表情を歪める人もいる。それは大抵が女子だった。
 この年齢の男子というのは、ひどく無神経で、ときにアレルに残酷な現実を無邪気に――わたしが怒りを覚えるほどに無邪気に突きつける。
 それを突きつけられたアレルはいつも、困ったように笑う。それを見るのが、わたしはとても辛くて。本当に、どうしようもなく辛くてっ!

 どうして、わたしはこうも無力なのだろうと、いつだって落ち込まされる。そう、いつだって、いつだって!

 どうして! どうしてわたしにはなにも出来ないの! いつも、そればかり思って!
 アレルが大切だから、本当に、大切だから、形だけの励ましだって、出来なくて。だって、それは、したくないから。そんな上辺だけの関係でなんて、いたくないから……。
 わたしに出来ることがなにもないという事実に、泣いたことだって、実は何度もあった。
 それでも結局、わたしに出来ることなんて、なにひとつ、なくて……!

 そう、出来ることなんて、いまこうしているように、ただ、そっとしておいてあげることくらいしかなくて。あるいは、アレルが困ってしまうほどに――困って、オルテガさんのことを一時でも忘れられるほどに積極的にアタックしてあげることくらいしかなくて……。だから、わたしは――

「あ、リザ。帰り支度終わったの?」

 気づくと、アレルがこちらを向いて話しかけてきてくれていた。

「じゃあ、帰ろっか。……ところで、そこに転がっているクラスメイトたち、どうしたの……?」

 アレルはわたしの足元に倒れ伏している数人のクラスメイトを指差して尋ねてくる。わたしは明るく「さあ?」と返して、

「それより帰ろう、アレル」

 と、アレルの隣に並んだ。もの思いにふけっている様子のアレルに声をかけようとしたため、ボディにいい感じのパンチを食らわせて気絶させたクラスメイトの頭をコツンと蹴って。
 ちなみに、廊下に出ようとしたところで気絶しているクラスメイトたちの総数は、男女合わせて6人。うん、今日は少ないほうだ。


 ――とりあえず、わたしはいまのわたしにやれることをやろう。
 それはいまのところ、アレルが困るほどにベタベタすることと、アレルが今日のようにもの思いにふけっているときに、そっとしておくこと。
 そう。それを邪魔する人がいたら、実力行使で黙らせることも躊躇はしないんだから。


<あとがき>

 はい。なんだかかなり暗い話になってしまいましたが、ラストにはリザっぷり全開のオチを用意しました。オチで笑ってもらえたのなら幸いです。
 これを書こうと思ったきっかけはレッツさんとのチャットですね。そこで『やっぱりブログ小説も書いたほうがいいのだろう』と思ったのです。

 いままで僕の小説を読んだことのある人にはもちろん、ブログ小説は『ルーラーの館』の小説を読んだことのない方にこそ読んでもらいたいものだったりします。……言うなれば、プレ小説?
 まあ、そんなわけですので、これを読んで僕の作品に興味を持ってくださった方は、ぜひ『ルーラーの館』の小説も読んでみてやってください。基本、この作品と同じスタンスで書いておりますので。

 あ、それとリザがクラスメイトたちにいい感じのパンチを食らわせたシーンは、明確な描写こそしていませんが、行間(?)を読めばちゃんとわかるようになっています。
 要は心中で『!』をつけているところですね。全部で6回『!』が出ているはずです。

 それにしても、書くのに思った以上に時間かかったなぁ……。
 それでは。



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