事情



 ことの始まりは今朝、学校へ行く準備をしていたとき、ドアを軽くノックする音が聞こえた。

「誰ですかー? 宴会ならこれから学校なんだからやりませんよー。なんと言おうとやりませんからねー」

 口調は至って本気だ。
 冗談かと思ったがそうでもない。

「あのすいません白鳥さん」

 ドアの向こうから聞こえるのは可愛らしい女の子の声だ。
 なにやら困っている様子だ。

「あの、なんかあったの?」

 ドアを開け、話を聞いてみる。
 3号室の桃乃恵(ももの めぐみ)が学校の時間だというのに部屋から出てきていないということらしい。

「とりあえず起こしに行ってみようか」
「本当ですか? ありがとうございます」

 本当は白鳥も学校へ急がなければならなかったが、大家さんが困っているのを黙って見過ごすことはできず、口でそう言っていた。
 また、大家さんにお礼を言われると、遅刻してもいいかな、と思ってしまうのだった。


「桃乃さーん、起きてますかー? 返事してくださーい」

 白鳥はドアを何度も叩き、大声を出した。

「なにかあったんですか〜?」

 3号室の前にまたひとり白鳥の声を聞いてやってきた。

「あ〜、梢(こずえ)ちゃん、そろそろ学校に行かないと〜」

 なにやらとても間延びしたしゃべり方をする女の子だ。

「あ、珠実(たまみ)ちゃん。早く行きたいけど、桃乃さんがまだ起きて来なくてっ!?」
「うわぁっ」
「あら〜」
「あら、白鳥クンたち、なにやってんの?」

 いきなり恵がドアを開け、それに弾き飛ばされた白鳥と梢を見て恵は言い放った。
 次の瞬間、白鳥はすぐに身体を起こした。
 白鳥はとても嫌な予感がしていた。
 梢は気を失っていた。
 廊下に倒れ込んだだけにしてはおかしい。
 まさか……

「おおっ、もうこんな時間!? 早く学校に行かないと〜」
「です〜」

 恵は時計もないのにそんなことを言って、珠実は妙なあいづちを入れた。

「ちょっ、ちょっと行かないでくださいよー」

 するとやっと梢が目を覚ました。
 白鳥はなぜかおどおどした様子でそろそろと歩き出し、他の二人はもういなかった。

「おい白鳥、なにおどおどしてるんだよ」

 はて、梢が発した言葉にしてはずいぶん違和感があるような……これは、一体……

「さ、早紀さん、お、おはようございます。ははは……」

 白鳥は先ほどまでの話し方と明らかに違う。

「なんだよ、相変わらずシケたツラしてんなー」

 早紀と呼ばれた女の子は、乱暴な口調でなにやらとてもイライラして見える。
 しかし、これは彼女の性格なのだ。

「あの、僕はこれから、学校へ行かないとゴニョゴニョ……」

 白鳥はどうしても声が小さくなってしまう。早紀はそれが気に入らないらしく、

「言いたいことがあるなら、もっとちゃんと言えよっ!」

 と文句を言われたうえに、ボカッと一発殴られる始末だ。
 これではなにか言うたびに殴られそうだ。
 白鳥は立ち上がると、一気に走り出した。
 後ろから早紀が怒鳴り散らしていた。



――――作者のコメント(自己弁護?)

 いや〜、やっぱり短いですね。――あ、どうも、ルーラーです。
 『まほらば〜三つの心〜』の第二話をここにお届けいたします。
 とりあえずメインメンバーはある程度出たでしょうか。
 しかし……下手だなぁ、6年前の自分。文章が稚拙すぎます。
 ちなみに『まほらば〜三つの心〜』は『まほらば』の第一巻が発売されると同時に完成させたものです。
 なので、それ以降の本編で明らかになったことは一切書かれておりません。
 このお話で違和感を持たれても、その辺りの事情がありますので、ご了承ください(主に桃乃さんの『学校に行かなくちゃ』発言ですね)。
 それでは。



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