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夜の森に願いをかけて
著者:高良あくあ


*ファルカスサイド*

「う〜ん、もうすっかり夕方だね、ファル」

 ある日の夕方。道を歩きながら、サーラが呟いた。
 オレはそれに、気の無い答えを返す。

「そうだな……」

「急いで行けば夜までに街に着くかな?」

「そうだな……」

「……ファル、全然聞いていないでしょ?」

「誰のせいだと思っているんだよ! オレが疲れているのも、昼には街に着く予定がここまで遅くなったのも!」

「あ、あはは……」

 そんなわざとらしい笑い声と共に、オレから目を逸らすサーラ。……まぁ、そこら辺の経緯については語るまい。

「あ、見てファル、誰か立ってるよ」

「話を逸らすな――って、え?」

 前方……サーラの指した方を見る。すると確かに、ちょうど道が分かれている辺り、その脇に人影が見えた。
 オレとサーラは会話しつつも歩いているから、当然すれ違うことになる。

 そしてすれ違う。……と、

「もし、そこのお二方」

 人影が突然声を発する。声からして女性、それもかなり年を取っているのだろうと伺える。いや、それにしてはおかしいというか、若い人間が無理やりしわがれた声を出している感、それに妙に作ったような口調が気になるが。そして、その声が妙に『どこかで聞いたことがあるような……』という感覚の拭えないものであるのも気になるが……

 とりあえず、こういう怪しい人間は経験上……というかそれ以前に人間の本能とかそこら辺が『無視しろ』と警告してくるのだが、オレの連れが黙ってはいなかった。

「えっと……わたし達のことですか?」

 丁寧に答えるサーラ。
 しぶしぶ人影の方に視線を向けると、思った通りそれは老婆だった。それもかなり背が低い。着ている服もサイズが合っていないのか、かなり大きいし……髪の長さはそのだぼっとしたローブの中に隠されているため分からないが、とりあえず白髪であることは分かる。だが、ところどころオレンジに見えるのは気のせいだろうか?

 老婆は首肯。

「そう、貴方がたですじゃ。この先の森に伝わる伝説は知っていますかな?」

「伝説?」

「ふむ、ご存知無いようですねえ。なんでも、この先にある小さな森を夜に二人で抜けると、どちらかの願いが叶うとか」

 それを聞いたサーラがぴくっと動く。そして、彼女は突然オレの方を見た。

「行こうファル! その森に!」

「は? ……って、ちょっと待て! 信じるのか、こんな怪しさの固まりみたいな話を!」

「ファルは信じられないの?」

「だってどう考えても怪しいだろ!? 伝説自体何が根拠なのか分からないし曖昧だし! 森を通ると遠回りだし、今は夜なんだぞ!?」

「平気だよ! 多分!」

「どこがどう平気なんだよ!」

「……ねえ、ファル。駄目かな?」

 急にサーラの声の調子が変わる。思わず勢いを失くしてしまうオレ。

「へ? い、いや、だって……」

「お願い! 絶対ファルに迷惑はかけないから! どうしても叶えたい願いがあるの!」

 まぁ、サーラみたいな整った容姿の人間に、ここまで必死に頼まれると断れないのが男、ってわけで……

「……仕方無いな」

「やったぁ!」

 嘆息するオレと、飛び上がるように喜ぶサーラの横で。
 黙ってオレ達のやり取りを見守っていた老婆の言葉が、耳に響いた。

「ならば一つ忠告しておきましょう。良いか? 聞いた話によると、精神魔術を使えば森の伝説は効果を失うと……だからお二方、願いを叶えることが目的なら、絶対に精神魔術を使ってはならぬ、と心に留めておきなされ……」

 ……最後まで、芝居がかった口調だった。

 ***

「よく考えたら、それも怪しいよな。夜の森だぞ? 当然モンスターだって大量に出てくるわけで、なのに<退魔結界陣(ホーリー・フィールド)>は使えないわけだし……それはまぁ良いとして、もし魔族とかにあったらどうするんだよ。ついさっきまで誰かさんが好き勝手やらかしてくれたせいであまり魔力が残っていないんだぞ、オレ達。超魔術は多分使えないぞ」

「大丈夫、魔族なんて滅多に出会う相手じゃないよ!」

「それもそうだけどさ……それに、<通心波(テレパシー)だって使えないんだぞ>」

「……あ」

 この様子だと、サーラは今までそのことを失念していたらしい。まったく……

「だ、大丈夫だよファル! <通心波(テレパシー)>を使わなきゃいけないような状況にも、きっとならないよ!」

「それはオレにとってはありがたいけどさ」

「うっ……それはちょっと酷いけど、そんなことより、早くこの森を抜けることが重要だよ!」

「……まぁ、その結論だけは激しく同意なんだけどな」

 その結論に至るまでの過程は、かなり間違っている気がしてならなかった。

「それにしても暗いね〜、ファル」

「夜だし、森の中だしな」

「ううん、そうじゃなくてファルのテンションが」

「だから誰のせいだと思ってるんだよ!」

「ファルのせい?」

「責任転嫁にも程があるだろ!?」

「そんなことより、暗いね〜」

「無限ループ!?」

「こうも暗いと、ちょっと怖いよね」

「放浪癖がある人間のセリフとは思えないな……オレと出会う前までは一人旅だってしていたくせに」

「それとこれとは別だよ〜」

「どう考えても直結してるだろ!?」

 明らかに無駄な会話をしつつ、特に何事も無く森の出口近くまで辿り着く。

「あ、出口だよファル!」

「そこまではしゃぐことか……?」

 苦笑しつつ、ぱたぱたと走って行ってしまったサーラを追いかける。
 と、視線がふとサーラの頭上に行き、

「サーラっ!」

 叫ぶのと同時に、体が勝手に動く。
 サーラを掴み、引き寄せ、その反動で後ろに倒れ……次の瞬間、轟音と共に、肩の辺りに激痛が走った。


*サーラサイド*

「……ファル……?」

 その場に蹲るファルに、呟くように声をかける。
 わたし達の目の前には、一本の木が倒れていた。根元が腐ってでもいたのか、そこから折れていた。そして背後には、血の付着した岩。刃物のように尖っている。
 恐らくファルは、わたしを庇って……木の下敷きになることは避けられたけど、倒れたところにこの岩があったのだろう。
 わたしが、わたしが浮かれて、周りをよく見ていなかったから……!

「いてて……ほら、さっさとこんな森出ようぜ、サーラ」

 ファルが立ち上がろうとする。それを、わたしは慌てて止める。

「だ、駄目だよファル! 命に別状は無いだろうけど、結構深いみたいだし……早く治療しないと」

「でも、精神魔術は使っちゃ駄目なんだろ? 超魔術を使うほどの魔法力は残っていないだろうし」

 確かに、ファルの言う通りだ。精神魔術を使ったら、願いは叶わない。つまり、白魔術である<回復術(ヒーリング)>や<復活術(リスト・レーション)>は使っちゃ駄目。なのに、超魔術を……<神の祝福(ラズラ・ヒール)>を使うほどの魔法力は、今のわたしには残っていないのだ。ああ、ここに来る前にあんな馬鹿騒ぎしなければ……!



 ……でも……



 ファルへの想いの方が、ずっと大事。

 それに、

「ファル、ずっと前にも言ったけど……わたしは医者なんだよ? 目の前で人が怪我しているのに、放ってなんかおけないよ!」



*ファルカスサイド*

「はぁ〜……」

 森を抜け、すっかり暗くなった空の下で。
 肩の傷もすっかり治ったオレの隣を歩くサーラが、何度目か分からない溜め息をついた。

「あのな……だから、別に森を出てからでも良かったんだぞ?」

「だって、ああいうのは早く治療しないと……ああ、でもこれで願いは叶わないのかなぁ……」

 また嘆息するサーラ。……だけど、

「それで、嬉しいのか?」

「え?」

 サーラが立ち止まり、オレの方を見る。ああ、急いでるっていうのに……
 仕方なくオレも立ち止まり、言葉を続けた。

「サーラがどんな願いを叶えたかったのかは知らないけどさ、こんな胡散臭い伝説に叶えてもらって嬉しいのか? とりあえずその程度の願いならそれほど価値も無いし……自分で叶えるから、願いが叶ったときって言うのは嬉しいんじゃないか? ってオレは思うんだが」

「う……」

 オレの言葉を聞いて、サーラはしばらく黙り込み……やがて、満面の笑みを浮かべた。

「そう……そうだね! うん、ファルの言う通りだよ! こういうのは他のものに頼るんじゃなくて、自分で叶えなきゃね!」

「分かったか?」

「うん、ばっちり!」

「よし。……ところで、サーラの願い事って結局何だったんだ?」

「それは内緒だよ、ファル!」

「……。ま、良いか。それじゃさっさと行くぞ。後少し歩けば次の街だし……朝早く出れば、明日の夜までにはレウルーラに着くだろ」

「そうだね、シルちゃんもアリエス君も待ってるよね! マルツもそろそろ着いただろうし。よし、そうと決まれば急ごう、ファル!」

「ああ」

 もう、夜も遅いのに。
 オレもサーラも、結構疲れているはずなのに。

 何故か、眠気とか疲労とか、そういう感覚は殆ど無かった。

 ***

 ……同じとき、同じ場所にて……

 歩いていく二人を、物陰からこっそり見ている一つの影があった。
 ファルカスとサーラに森の伝説を教えた老婆だ。しかし彼女は唐突に頭に手をやる。

「うん、途中でちょっと冷や冷やしたけど、結果オーライよね!」

 白いカツラを外すと、そこにはオレンジ色の髪の毛。それを手際良くポニーテールにし、明らかにサイズの大きいローブを脱ぎ捨てて軽装になった彼女は、後ろにいる二人を振り返ってそう言い放った。
 二人のうち女性の方が嘆息する。

「いえ、ミーティア様。そういう問題では無いというか、そこに至るまでの過程に問題がありすぎる気がするんですけど……」

「ドローアの言う通りだぞ、ミーティア。もし魔族とかが出てきたらどうするつもりだったんだ?」

「そのときは、仕方が無いから助けに入ってあげるわよ」

「……でも、ファルカス大怪我したぞ?」

「治ったから問題無しよね」

「いえ、レウルーラに着いたときに黒幕がミーティア様だったのを知ったら、お二人とも怒ると思いますが……」

「知られなければ良いのよ、知られなければ! 二人とも、絶対黙っていてよね」

「いや、まぁ、わざわざ言うつもりも無いけどさ」

「……仕方ありませんね……でもミーティア様、どうしてわざわざお二人の後をつけて、その上伝説をでっち上げたりしたんです? レウルーラに行くなら、王宮には『刻の扉』だってあるじゃないですか。実際、セレナ様はそちらを使ったわけですし」

「実は単なる思いつき」

「……ミーティア様〜?」

 ドローアの声からただならぬ怒気を感じ取ったのか、ミーティアは慌てて言い訳を試みる。

「だ、だって、何かあの二人見ているとイライラするって言うか、羨ましいって言うか、よく分からないけどモヤモヤするじゃない!」

「いや、しないだろ」

 アスロックの反論。しかし、ドローアは納得したように頷く。

「まぁ、分からなくも無いですが」

「許すのか。というか、ファルカスはその程度の理由で大怪我したのか。良いけどさ……」

「うんうん。それじゃアスロックもドローアも、急ぐわよ。あたし達も明日中にレウルーラに着かないと」

「そうですね。急ぎましょう、アスロックさん」

「そうだな」

 そして彼らは一所に集い、ドローアが激しく後悔することになるのだが……

 それはまた、別の話。



あとがき

 そんなわけで、あとがき的なものを書くのは二度目な高良あくあです。
 だいぶ遅れてしまいましたがルーラーさん、誕生日&ブログ三周年おめでとうございます!
 お祝い、と言いつつ祝っているのかイマイチよく分からない二次創作短編をお届けします。うう、時間をかけたくせにこの程度のクオリティで申し訳無いです。もう少し面白くは出来なかったのか、私……

 メインはファルカスとサーラ、そして味付けに約三名、隠し味にシャウナさんの設定を……といったところでしょうか。
 多分、時系列はシャウナさんの書いている『Varekai 〜バレカイ〜』の直前くらいだと思います。ファルカスやサーラ、ミーティア達の向かっている場所、そして最後の文章で予想もつくでしょうか……

 もう少し甘い展開も入れたかったのですが……うん、まぁ、そこは察してください。
 私がいかに甘い話を書くのが苦手か、と言うのが良く分かりますね……何で『彩桜』でラブコメ書いているんでしょうね、私。何で物語に毎回恋愛要素を入れるくせに甘い話は書けないんでしょうね。
 まぁ、甘い話はシャウナさんにお任せしましょう。

 『彩桜』の方も続きを書かねば、ですね……次はそちらでお会い出来ますように。
 では。



――――管理人からのコメント

 お祝いの言葉と小説の投稿、ありがとうございます!
 ファルカスとサーラがメインの話だったので、最初は『ザ・スペリオル』の二次創作にカテゴライズしようと思っていたのですが、最後まで読んでみるとshaunaさん執筆の『Varekai 〜バレカイ〜』に繋がるようでしたので、時系列的な面を優先して『スペリオル』の二次創作とさせていただきました。
 あと、タイトルのほうもこちらで決めさせていただきました。気に入っていただけたでしょうか? 最初は『星に願いを』のパロで『森に願いを』にしようと思っていたのですが、それでは芸がないな、と思いまして(苦笑)。

 そうそう、ファルカスはともかく、サーラを使っての『甘い展開』というのは、なかなかに書きにくいものだと思いますよ? だってほら、物腰は柔らかなのに、なんだかんだで男らしいというか逞しいというか、そんな感じですから、彼女は(笑)。
 それでは。



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