聖女と魔女と過去の真実
著者:shauna


 任務失敗・・・


 それはアリエス=フィンハオランにとってまったく初めての経験だった。


 IMMに所属するようになって半年になるが、これまで数十の極秘任務をこなしてきた。
 14歳という年齢を考えると、神童と言ってもいいかもしれないとシェリー様にも評価された・・・

 だが・・・
 


 失敗・・・




 その一言はアリエスの胸に深く刻まれた。



 それに今回の極秘任務・・・
 それもIMMの中では標準的な任務だった。

 まあ、命がけであったのは言うまでもないことであるが・・・



 ビル=ガーランド・・・

 市長になろうとしていた彼は、マフィアの頭目でもあった。
 キャスリーンとも近しい関係にあった彼は、国に多額の寄付をすることでその存在を認めてもらっていたらしい。
 
 今回の彼の確保もソレが目的だった・・・
 彼を確保し、多額の寄付とキャスリーンとのつながりを暴露させることで、女王キャスリーンの地位を揺らがせるという目的の元、シェリーが行った任務だったのだ。
 

 しかし・・・


 任務は失敗。しかも敵国の人間に暗殺されるという最悪の結末。
 それに、今回の失敗にはつきまとう疑問が多すぎた。

 

 何故、ビルは敵国の人間に暗殺されたのだろうか・・・そもそも、国内を腐らせている一人は敵国にしてみても都合がいいはずなのに・・・

 そして、一番の疑問は・・・


 


 あの白い髪をした恐ろしく美しい少女・・・
 
 彼女は一体何者なのだろうか・・・






 その答えを聞くためと、できるだけ早く商市フィーネから脱出するために――あのままあの街にいつまでの残っていたら、それこそ事後調査で不審人物としてまず挙がるのは黒服の男たちを失神させてしまった自分である――あの後、すぐに馬車に飛び乗り、ある場所を目指した。



 皇都アトランディアである。



 蜘蛛の巣のように張り巡らされた街は教会の展望台に登っても果てが地平線に重なるほどに広大であり、そして、アリエスが目指す先はその蜘蛛の巣の中心にまるで囚われた蝶の如く羽を広げる巨大な城だった。
 
 ラヴィアンローズ城・・・エーフェ皇国の宮廷にして、政治の中枢。いや・・・今となってはただの腐敗の中心箇所に過ぎないのかもしれないが・・・

 ビクトリア調の建物にかこまれた中央にそびえるその城は秋だというのに季節を先取りしたかのように隅々まで純白でまるで雪化粧ををしているかのようにすら見える。




 格子状に組まれた外門の所まで行くと、4人の衛兵が一段と綺麗な軍服と美しい装飾槍を手に入り口を警護していた。


 「認識番号Libra7 コードL007 氏名アリエス・フィンハオランです。任務事項の報告のため、シェリル・リ・シェリサント閣下に謁見に参りました。お通しください。」


 必要事項を告げ、身分証であるカードを提示すると、衛兵たちはまるであざ笑うかのような卑屈な笑みを浮かべて、門を開いてくれた。

 無理もない・・・
 IMMは正規軍からすれば、その実がどうあれ、寄せ集めの笑いものか、もしくは戦果が異常に良い鼻つまみ者・・・

 
 そして、内門でもう一度、必要事項と身分証を提示してからも、衛兵や文官武官達の目線は全く同じものだった・・・
 なので、できるだけ視線を合わせないようにしながら、いつもの場所に向かう。

 城をまっすぐ抜けて後庭に出て、そして人工的に作られた森の中に入っていくとそれはあった・・・
 綺麗な宮殿だ。

 
 レウルーラ離宮。シェリー様の所有する専用の離宮である。


 そして中に入り、目指すのは二階の隅の部屋。
 シェリー様の執務室である。
 ドアをノックすると、向こう側から男の返事が聞こえた。


 「アリエスです。」

 「おう、入れ入れ。」

 ドアが開けられ、姿を現したのは金糸のような金髪を輝かせる美形の男だった。

 フロックコートにウェストコートを着用し足元はスラックスにひも付きの革靴。首にはアスコットタイを占め、胸元からは銀時計のチェーンが胸ポケットに向かって掛けられている・・・典型的な上級使用人の格好をしていた。
 それは、プラチナブロンドの髪とタイガーアイ色の瞳を持つかなりの美男子で、黙って立っているだけでも絵になる。


 レーナルド・フュル・アトール・・・シェリー様付きの執事である。


 「よく戻ってきたな・・・ビルが殺されたって聞いて今必死になって犯人を探してるらしいし、犯人が14歳の少年であったって証言も多数あるらしいから心配してたんだぞ?もしかしたら、身代金を用意しなきゃいけないかもって・・・」
 「すみません・・・御迷惑かけました。しかも俺・・・失敗までしちゃって・・・」
 「気にすることないって・・・生きて帰って来てくれただけで嬉しいってシェリー様が喜んでたぞ?」
 「あ・・・シェリー様は?」
 「今、ジョーカーと一緒に武官達から今回の暗殺事件の情報収集をしてる。そのうち戻ってくると思うけど・・・あ・・・紅茶飲むか?」
 「いただきます。」


 アリエスは返事と共に、部屋に置かれたソファに腰を落ち着けた。それと同時にレーナルドがティーカップとマカロンやヌガーやパウンドケーキの乗ったコンポートを持ってそれを目の前のガラステーブルに置いた。

 「ありがとうございます。」

 口を付けると、何も入れていないのにほのかに甘い。それにこの香り・・・。
 最高級の茶葉を使用している上に、淹れ方も何一つ間違っていないのだろう。

 「流石、王宮執事・・・」

 アリエスがほんのりとそう漏らすと・・・

 「当然でしょ・・・。」

 聞き覚えのある女性の声が部屋に響いた。
 
 「王宮執事・・・それは、公爵以上の地位に5年以上仕えたことのある家令の中でも選りすぐりのスーパーエリートだけが就くことのできる花形職業。王室直属の彼らに求められるのは全てのスキル。それこそ、皇族を相手に家庭教師が務まる程の学力から、身辺警護が務まる程の武術の腕前まで・・・その中でも仮にも前皇后たる私に仕える執事が・・・紅茶も淹れられないなんて言ったら、笑われちゃうわ。」

 先程アリエスが入ってきた入口が美しく両側に開くと同時にその声を聞いたアリエスもレーナルドも自然と笑顔になり、静かに立膝になり、頭を下げた。
 

 美しい真紅のデイドレスに身を包んだシェリー様の登場だった・・・。

 そしてもう一人・・・後ろには一人の男が控えていた。


 真紅のマントにオレンジ色の髪の毛・・・衣装はスラックスにベストとエプロンをしていないギャルソンやバーテンダーを思わせるが、その顔には左の頬に青で水玉のような涙のような模様が描かれており、腰にもレイピアではなく、短剣を携えていた。

 「ジョーカーさん・・・」

 アリエスがその名前を呼ぶ。ジョーカー・ルシッド・・・シェリー様付きの宮廷道化師にして、人々を楽しませるのが仕事・・・実際アリエス自身も彼のマジックを見たことはなんどもあるし、その腕前はまさに神業と言っても良い。



 ・・・というのが建前である。


 しかしながら、宮廷道化師には裏の役割がある。

 それは場内を自由に行き来し、人々の心を巧みに掴み、時には読心術や読唇術などを様々な術を使い、主の必要な情報を収集する。


 つまり、シェリー様お抱えのスパイ。


 「レーナルド・・・私も紅茶・・・」

 ドレスグローブを外し、コンポートの上に乗ったマカロンを口に放りこみながら、シェリルがそう言うと同時にレーナルドが紅茶を差し出した。

 「さすがね・・・」

 シェリルがアリエスの向かいのソファに腰をおろし、差し出された紅茶を飲む。

 「お疲れ様です。大変だったでしょう?」

 レーナルドの問いかけにシェリルが頷いた。

 「まぁね・・・ビルの暗殺の件で大分疑われたわ・・・IMMの関与を・・・でも、私が『不当な献金問題疑惑があるようだった為、調査していたのですが・・・まさか国家が関与を?無実を証明するために事後調査してもよろしいですが・・・』って言ったら、あいつら青ざめてたわ・・・あからさまに『もうよい!この問題は終わりだ!』って・・・流石に不当献金が明るみに出れば首を締めるのはあいつらだからね・・・わざわざ私を呼び寄せておいて・・・フフッあの表情・・・見せてあげたかったわ。」
 「すいません・・・俺が失敗した上に見つかったせいで、シェリー様にまでご迷惑おかけして・・・」

 肩身狭そうにアリエスが謝る。

 「気にしなくっていいのよ・・・それに、結構収穫もあったしね・・・」


 シェリルがパンッと手を打った。


 「さて・・・“坊や”・・・まずは任務ご苦労。失敗はともかくとして、無事に帰ってきてくれたことに敬意を表するわ。ありがとう・・・」

 「あ・・・いえ・・・」

 恥ずかしくって思わず紅茶を一口啜った。


 「で・・・アリエス・・・」


 シェリルの足組をすると同時に表情が真面目になった。


 「私が呼び寄せたのはあなたに伝え忘れたことがあったからだけど・・・その前に・・・何か私に聞きたいことがあったんじゃない?」



 ・・・・・・


 一拍おいてから、アリエスが静かに質問した・・・


 「3つ・・・聞きたいことがあります。」
 「一つめは?」
 
 「まず・・・ビルを殺した犯人・・・知ってますよね?」
 「・・・えぇ・・・ジョーカーが調べてくれたから・・・」
 「あの子・・・何者なんですか?」
 「誰だと思う?」

 「・・・・・・ブルーフィールドの森でも彼女に会いました・・・」
 「!?」


 ソレを聞いてシェリルが驚いたように立ち上がった。


 「・・・会ったって・・・居たの?あの場に・・・」
 

 少し間をおいてからアリエスが頷く。


 「リアーネの手を貫通させた一撃・・・与えたのは彼女です。」
 「・・・・・・なるほど・・・リアーネだって手練・・・よっぽど油断したのかと思ったらそういう事だったか・・・」
 「・・・シェリー様・・・彼女何者なんです?あのリアーネですら気配がわからなかったなんて・・・未だに信じられないんです。」
 
 リアーネの単独任務の回数は現在3回。すべて暗殺の任務だったが、彼女はそれを見事にこなした。成功率は100%。今回の任務で失敗したアリエスに比べても全然優秀な成績だ。その彼女が・・・


 「・・・・・・ジョーカー・・・」

 シェリルが呼びかけると、ジョーカーが静かに口を開いた。



 「・・・幻影の白孔雀だ・・・」

 「幻影の・・・白孔雀って・・・」


 その名前・・・アリエスは聞いたことがあった・・・


 「・・・戦場で彼女に会ったら生きて帰ってくることはできない・・・ってあの都市伝説ですか?」


 それはまことしやかに囁かれる戦場の都市伝説だった。
 つまり、戻ってくるはずの部隊とかが消えてしまった時「幻影の白孔雀にやられたんだ」って言う程度の・・・
 まあ、おそらく実際は現状報告する余裕すらないまま全滅させられてしまったが故という・・・なんとも残酷な話なのだろうが・・・


 しかし・・・


 「ジョーカーさん・・・マジなんですか?」

 そう・・・あの少女が幻影の白孔雀だというのであれば、事態が一変する。
 なにしろ、行ける都市伝説。そして、最凶最悪の敵が生まれることになる。
 戦場で会ったら生きては帰ってこられない・・・そんな言葉を生み出すような怪物。
 できればウソであってほしい・・・そんなアリエスの僅かな願いを壊すかのように、ジョーカーが言葉をつないだ。


 「マジだ・・・軍の高官をまわって、情報収集をした結果、ここ2年間の・・・俗に神かくしと呼ばれている“負けるわけの無い敗北”が起こる前にはかならず白い髪の少女が目撃されている。あまりの美しい容姿に誰もが目を奪われるほどのな・・・」


 あの子だ・・・と瞬間的に思った。

 「彼女のこと・・・教えてください。」
 「・・・名前はシルフィリア・アーティカルタ・・・魔導師だ・・・」
 「魔導師・・・」


 それを聞いてアリエスの表情が凍った。
 そもそも、この世界には、魔術を使えるものが限りなく少ない。そもそも魔術というのは、血と聡明さと精神力。この3つが針の先ほども狂わぬ水準でバランスを取り合い、初めて使える人間となるのが魔術だ。つまりは完全に運任せ。確かに魔術師や魔道士の子供は魔道士魔術師になることが多いが、それでも現在この世界には魔道士と呼ばれる人間は数千人しか存在しない。そのため、軍は魔道士には超高給料を支払いエリート扱いとしている。魔道士であるだけで、いきなり仕官、いきなり月収10万リーラなんてのは当たり前の話だ・・・


 だが・・・

 魔導師・・・


 それは魔術師や魔道士よりもさらにレアな存在である。

 俗に、魔術というのは、“魔の法則”を理解していくことで、その術を成立させることができるが、そうなってくると、ドラゴンやグリフォンは何故そんな法則すら知らないのに火を吹いたり飛んだりできるのかということになる。
 

 そう・・・ドラゴンやグリフォンも法則を理解しているのだ・・・ただし、文字や知識としてではなく、リズムとして・・・

 魔導師はそのリズムを読み取り、それを魔術語に乗せて魔法を使う術師のことを指す。しかも、魔道士が大気中の魔力を利用するのに対し、魔導師はその名の通り、魔界から魔力を導く動線を生まれつき備えている。


 つまり・・・


 魔導師というのは新人であっても、ドラゴンやグリフォン並に強い。生まれながらにして、“魔の法則”という音感を自らの体内に持っているから・・・

 そして十分に訓練された魔導師はそれこそ化け物になる。
 比例して、魔道士なんかとは比べものにならないぐらいレアリティも高い。
 魔道士が数千人なれば、魔導師は現在6人しか存在しない上に、戦争の影響で既に4人が死亡している。

 そのうち、1人はアリティア帝國、つまり敵軍に居る。そして1人はエーフェに・・・

 1人は既に隠居しており、戦争には出てこない。そして最後の一人は・・・なにを隠そう、シェリー様だ。

 彼女が若干17歳にして、エーフェ皇国最高部隊、円卓の騎士団(レオン・ド・クラウン)に入隊できたのもそういう理由である。


 だがしかし・・・


 幻影の白孔雀が魔導師ということになれば・・・事態は一変する。
 
 国家間のパワーバランスが一気に崩れることになる。

 「所属は、神聖アリティア王国だが・・・特定の部隊には所属していないようだ。ただ・・・少々気になることがある・・・」
 「気になること?」
 「今回、俺は敵国まで侵入して情報収集をした・・・このシルフィリアという少女についてのな・・・彼女が歩んできた軌跡・・・つまり彼女の過去を調べ上げた・・・」
 「それで・・・結果は?」


 シェリー様が業を煮やして問いかける。


 「何も・・・」
 「何も?」
 「何も出ませんでした・・・彼女の出身地、家系、学校や経歴・・・すべてが不明なんです。」
 「不明って・・・奴隷か何かってことですか?」
 「例え奴隷であっても、売買記録は残ります。むしろ、奴隷の方が出身地や年齢などが明確に記載される場合が多いですね・・・。でも、彼女は・・・何一つとして出てこなかったんです。」


 室内を静寂が包んだ。
 ジョーカーが調べられない・・・そんなことはこれまでに一度も無かったからだ。
 
 経歴一切不明の魔導師・・・
 これ以上に怖いモノがあるだろうか・・・



 「・・・・・・気になる?彼女のこと・・・」

 
 そんなそわそわとしたアリエスの様子を察して、シェリルが声を声をかけた。

 「・・・そりゃ・・・まぁ・・・その・・・彼女が何者かわからないのは事実ですが・・・その・・・幻影の白孔雀って、伝説によれば、会ったら帰ってこられないんですよね?」

 ジョーカーが静かに頷いた。

 「でも・・・リアーネは生きて帰ってきた。そして、オレは2回も・・・だったら、何か意味があるんだと思います。宗教かぶれするつもりはありませんが、オレがあの子に2回も出会ったのには何かしらの因縁ていうか・・・宿命っていうか・・・とにかく、そういった類のモノがある気がするんです。」
 「・・・・・・なら、朗報があるわ。」



 え?



 力説から一変、キョトンとした表情のアリエスにシェリルがレーナルドから受け取った封筒を差し出した。

 「次の任務よ。あるとっても偉い方の護衛。」

 言葉を聞きながらアリエスは封筒を開けそして・・・中に入っていた書類を見て驚愕した。


 「これって・・・」






 “聖を悪に、偽りを誠に、黒を白に、暁を黄昏に・・・一週間後の暁までに・・・偽りの聖女の命、頂きたく存じます”


 「挑戦状。」

 シェリーがアリエスの代わりに答える。
 そしてアリエスは再び手紙へと目線を落とした・・・。

 「この文面に書かれている偽りの聖女って・・・」
 「聖女のくせに戦う女がひとりいるでしょう?」
 「エリー様ですか?」
 「他に居ない。」


 ・・・・・・


 エリー様・・・
 最後にあったのはもう4年も前になる。

 一応安否だけは伝えておいたけど・・・


 「シロンのことが聞けるかもしれない・・・」


 思えば、10歳の時に別れて以来、ずっと会っていない。久しぶりに会いたいというのもあった・・・
 そして・・・なにより、再会を誓ったシロンのことが・・・

 2年前に謎の失踪を遂げた彼女をアリエスはずっと探してきた。


 IMMに入ったのもそのため・・・王宮内に入れば情報が集まりやすいと考えたのだ。


 しかし・・・


 現在のところ、有力な情報は一切得られていない。


 そこへ舞い込んできた今回の任務は彼にとってまさに天啓とすら言えるかもしれないものだった。


 「シェリー様・・・この任務・・・IMMでやりたいです。」


 アリエスの言葉にシェリーが微笑んだ。

 「そう言うと思って・・・もう準備してあるわよ。本日から一週間。IMMは聖女エリルティア・オンタリオの警護に当たるわ。場所は皇都中央教会プリティヴィ。レーナルド、全員に命令を出しておいて。2時間後にいつも通り作戦室。以上。」
 「「「了解。」」」

 気合の入った3つの返事が響き渡った。






   ※          ※          ※







 時が少し前後する。

 神聖アリティア帝國 帝都ヴァルハラから数キロ程離れた森にまるで隔離されているかの如く存在する砦・・・

 その砦の地下深くに一室の地下室がある・・・
 いや・・・部屋というよりは金庫と言った方がいいかもしれない。
 
 扉はものすごく巨大な鋼鉄製で、壁の暑さは1mを超える。
 更に内部も耐久性に優れたミスリル合金で敷き詰められた、まさに重要物質の保管庫のようであった。


 しかし・・・


 裏をかえせばそれは・・・



 中のモノから外のモノを守る檻の役目すら果たしてしまう。


 そして・・・この部屋は・・・


 まさにその逆金庫とも言える役割を果たすために作られたものだった・・・。




 ガタンッという凄まじい音と共に少女は床を思い切り叩いた・・・そのあまりの衝撃に拳からは血が滴り落ちる・・・継いで・・・


 「う・・・くっ・・・・ああああ・・・・ああああああああああああ!!!!!!!」


 悲痛な叫び声と共にシルフィリアは床に伏せり、頭を抱えて暴れ始めた。
 見開かれた目からは涙が溢れ、口からはヨダレが溢れ、ひたすら苦しそうに暴れる・・・。


 「ご・・・めんなさ・・・い・・・ごめ・・・ん・・・な・・・さい・・・だから・・・だからもう・・・お願いします・・・ヴェルンド様・・・もう・・・ゆるし・・・」


 悲痛な叫び声が向かう先は金庫室の天井だった。
 唯一ガラス張りにされたその上には一人の白衣を見にまとったエルフが立っていた。
 濃い紫色の髪に白い肌色と尖った耳・・・まるで人形のようなピンクダイアモンド色の目を細め、彼はシルフィリアに言う。


 「まったく・・・駄目な子だ・・・私は言ったはずだよ?極秘任務だと・・・なのに、敵のスパイに顔を見られた?それをみすみす取り逃がすなんて・・・シルフィリア・・・私は悲しいよ。そんな子にはお仕置きが必要だろう?」
 「ヴェ・・・ヴェルンド様・・・これ以上は危険です。やはりそろそろ・・・」

 助手の男が心配そうにそう諭すもヴェルンドは相も変わらぬ冷たい表情で言い払う。

 「貴様・・・何を言っている・・・この奴隷は一体、何をした?」
 「・・・・・・任務に・・・失敗しました。」
 「だったら、それ相応の罰は受けなければならないだろう?我々が欲しいのは完璧な子供だ。容姿から戦闘能力はもちろん、作戦の成功率に関してもな・・・そして、極秘と言ったにも関わらず、誰かにその姿を見られ、姿を見た誰かを放置することを独断で決めるような失敗作はいらないのだよ。皇帝が欲しがっているのは、戦争を有利にする強い兵士ではない・・・戦争を勝利という名の集結へ導く化物なんだ。そして・・・我々はシルフィリアにそうなってもらわなければならない・・・わかるよな?」

 その言葉にシルフィリアは激しく首を縦に振り、そして再び襲い来るとてつもない不快感と激痛に涙を流しながら踊り狂った。
 その後しばらくシルフィリアは苦しみ、ヴェルンドはその様子を見続けた。そして・・・
 ガラスの傍に取り付けられた小さなダストシュートに美しいビンに入った青い液体を投げ入れる・・・そのビンは管を通ってシルフィリアの目の前へと転がりでて・・・
 シルフィリアはまるで天使の施し・・・地獄に垂れた一本の蜘蛛の糸とでもいわんばかりに震える手でソレにすがり、ガタガタと震えながらそれを一気に飲み干した・・・
 

 そして・・・
 しばらく体を抱き抱えるようにして悶絶した後・・・ふっと体から力が抜け、そのまま床に倒れこむ。


 ハァハァと肩で息をしているのを見て、未だ意識を保っているのを確認し、ヴェルンドは静かにシルフィリアに告げた。


 「一週間後の深夜・・・聖女エリルティア=オンタリオの暗殺がある。既にオマエの名前で予告状も送ってある・・・」


 ヴェルンドの視線が一気に鋭くなった。



 「いいか?シルフィリア・・・今回は失敗してくれるなよ?かならず殺せ。聖女はもちろん、警備の兵士、果てはオマエの姿を見た民間人まで・・・女子供含め全員。わかったな?」


 ソレに対し、消え入りそうな声で立ち上がる事も出来ずに答えた。





 「イエス・・・ユア・ハイネス・・・」










   ※          ※          ※





 

 エリーとアリエスが再会したのは実にもう4年ぶりだった。
 彼女は枢機卿第三席・・・そしてアリエスはフィンハオラン家養子・・・

 あの頃とは比べ物にならないぐらい出世した。


 でも・・・



 本質は変わらなかった。
 エリーと久々の再会を果たした大聖堂・・・


 そこでアリエスは・・・周りの人目なんて一切気にせずにエリーに抱きしめられた。


 涙を流して一通り喜ばれた後、また一目なんて気にされずに正座で説教された。



 ・・・いやね・・・
 でも思い当たるフシが多すぎるたんだ・・・
 あの後、絶対皇都に行くって宣言しておきながら、あの時はどこの誰ともわからない・・・それこそ奴隷商人だったかもしれない男について行って、そこから四年間の地獄の剣術修行。おかげで現在の学力は小学校6年生程度。はっきり言って馬鹿だ。

 そして、それからきちんと生きていて現在はフィンハオランの屋敷で養子として世話になっていることを告げたのはフィンハオラン家での修行を終えた4年後・・・しかもその頃はシェリー様の元で宮廷礼節なんかを勉強するのが忙しくって、伝達手段は僅かに手紙一通だけ・・・
 気になれば会いに来るだろうと思ってたけど、よくよく考えて見れば相手は枢機卿・・・

 教皇でもない人間が簡単に教会からフラフラ出歩いて、宮廷の練兵施設に来て、しかもIMMという表向きは軍の鼻つまみ者として志願した自分に名のある聖女がそう簡単に会えるわけがない・・・彼女自信が会いたくっても周りの他の枢機卿が許さないだろう・・・貴族がワザワザ奴隷に会いに行くようなものだ。身分と家名が許さない。

 つまり、つい数カ月前に通信をしてそれっきり・・・


 ・・・・・・そりゃ怒られるに決まってる。




 ともかく、宮廷・・・つまり女王キャスリーンとその取り巻き共の考えはわかってる。
 
 幻影の白孔雀。それは出会ったら生きては帰って来られない究極にして最強の死の凶星。
 そして、今回命を狙われているのは聖女エリルティア・オンタリオ。


 宮廷とは違い、国民から絶大な人気を誇る聖女で、彼女が一声「宮廷を倒そう」といえば、反乱軍さえできかね無い女性である。

 
 そんな女性が幻影の白孔雀と対峙する。


 コレほどの好カードはない。
 聖女が幻影の白孔雀を殺してくれれば、宮廷は彼女を召し抱えることで国民からの支持を高くし、さらに最大の脅威がなくなる。
 
 逆に白孔雀に聖女が殺されれば、国民からの絶大な人気を持つ一角をこのエーフェ皇国から消し去ることができる。


 そして、宮廷はこう考えたはずだ・・・


 どうせなら、あのいけ好かないシェリーとIMMも葬ってしまえ・・・と・・・
 だからこそエリーの警護を最高部隊である円卓の騎士団(レオン・ド・クラウン)ではなく、自分たちに回したのだろう。


 殺すなら諸共・・・毒を喰らわせるなら皿まで食らわせる・・・
 エリーの警護に失敗したとなれば、IMMを一気に更迭し、シェリルを失脚させる足がかりになる。

 いや・・・それ以前に任務が警護であり、相手がかの幻影の白孔雀である時点で、全員死亡・・・もしくは再生できないほどの死者とダメージを負うと考えているのか?

 まあ、どちらにしてもIMMはなくなる。
 仮に聖女が死ななくても、IMMは今まで通りの地位に戻るだけ・・・いや、もしかしたら警護していたのは、今はもう大陸最強の呼び名も廃れた身分だけの円卓の騎士団(レオン・ド・クラウン)か?

 なんにしても、勝つのは宮廷。しかもひとり勝ち・・・


 「いけ好かないとは思うけど・・・エリー・・・私たちも宮廷からの命令をおいそれと断るわけにはいかない・・・ってことで・・・悪いけど、警護は勝手にさせてもらうわよ?」


 その後開かれた晩餐会というにはあまりに質素な席で今回の護衛のメンバーとシェリーがサンドイッチをつまみながらエリーに問いかけた。
 
 対しエリーは静かに答える。


 「そうね・・・シェリル・・・私も宮廷から派遣された兵隊さんの警護をおいそれと断れるわけにはいかないわ・・・」

 ん?・・・シェリル?

 「エリーさん・・・シェリー様ともしかして知り合いなんですか?」

 アリエスの問いかけにエリーが答える。


 「えぇ・・・昔ちょっとね・・・」
 「宮廷礼節のゼミの時の知り合いかなぁ・・・私も彼女も出は平民だしね・・・最も、彼女は教会へ戻り、私は円卓の騎士団への道を選んだけど・・・」

 ・・・・・・意外だった・・・
 まさか2人が知り合いだったなんて・・・
 シェリー様もそうだけど・・・エリーさんも結構素性がつかめない人かもしれない・・・

 まぁ聖女だし当たり前といえばそれまでなんだけど・・・



 「それで、シェリル・・・まずはそちらの条件を聞こうからしら・・・」
 「条件?」
 
 それに対しエリーは静かに笑った。

 「あなたには隠し事できないわねぇ・・・」

 真紅の髪をかきあげ、シェリルが言う。

 「私の部下、騎士執事レーナルド、それからIMMからはあなたの身辺警護としてアリエス君、それから一緒に負傷したリアーネの代わりに槍兵シーブス君をおいていくわ。シーブス君はまだ実践経験ないけど・・・一応腕は確かよ。最も年齢は14歳と若いけどね・・・でもそのかわり、外は完璧。すべての扉を魔法封印して施錠し、さらに教会内にはレーナルドを初めとするIMMを20人程無作為に配置するわ。さらに、王宮も流石に手柄を独り占めされるのは惜しいと考えてるアホな仕官も多いから、何人かに声をかけて兵士を400人程貸してもらった。彼らで教会の外を固める。
詳細はあるけど、これが今回の警護のおおまかな内容よ。で、コレが資料。」

 そう言うとシェリルはエリーに対してスッと数枚の紙の束を投げ渡した。


 「私の条件はこの内容で警備させてもらうこと・・・」
 「シェリル・・・あなた自身は警備には配置されないの?」
 「そうしたいのは山々なんだけど・・・できれば宮廷はあなたを殺したいって考えてるからね・・・この一週間はまるで都合を合わせたように、宮廷内で重要な式典が催されて、私も出席しなければならない・・・キャスリーンのやりそうなことね・・・」
 「そう・・・」
 「大丈夫よ。私が居なくってもレーナルドが居るし・・・それにあなた自身も救国の聖女って祭りあげられるぐらいの戦闘能力あるでしょう?」
 「そうだけど・・・」
 「殺したくないのはわかる・・・でも、幻影の白孔雀はこの世にはあってはならないものなの・・・この世界を・・・ひとつなぎの大陸を支配するためにはね・・・まずは大陸全土をエーフェのものに・・・その後で、戦争という事実に惑わされなくなった民の力でえーフェを壊す。」
 「そしてあなたは女王に?」
 「さぁ・・・どうかしら・・・民意があなたに向くなら女王はあなたでもいいのよ?それともあのジュリオ・チェザーレにでも王になってもらおうかしら・・・」
 「民が王様を選ぶ?聞いたことないわね・・・」
 「だからこそやってみる価値があるとおもうの・・・世界はすべて人によって動く・・・なれば、人の言葉に耳をかたむけるのは当然でしょう?」
 「そうかもね・・・・・・」


 読み終えた資料をシェリルに返却し、エリーは静かに紅茶を啜る。
 
 「いいわ。条件は飲む。じゃ、今度は私の条件ね。」
 「何?」
 「私の予言が正しければ、幻影の白孔雀が襲ってくるのは予告のあった一週間で最終日に当たる14日・・・その日・・・私は大聖堂の中央に位置するシスティナ礼拝堂に篭る。その時・・・誰も礼拝堂にはいれないで頂戴。」
 「馬鹿なこと言わないで!!!」

 シェリルが強くテーブルを叩いて立ち上がった。

 「それじゃ身辺警護の為にわざわざアリエス君たちを付ける意味が皆無でしょう!?あなた自分の立場わかってるの!?救国の聖女がもし幻影の白孔雀に殺されたとなれば、今まであなたを支持してきた民全員の希望をすべて殺すことになるのよ!?」
 「・・・・・・わかってる・・・でも、やらなきゃならないことがあるの。」
 「やらなきゃならないこと?」
 「私は・・・幻影の白孔雀に・・・どうしても聞かなければならないことがあるの・・・」
 「聞かなきゃならないことって・・・敵国のエースに何を聞くつもり?」
 「・・・・・・私の未来予知は・・・千里眼の機能は兼ね備えてない・・・見えるのは私の身の回りのほんのわずかな範囲だけ・・・そして・・・」
 「・・・・・・一つだけ聞いていい?」
 「何?」
 「あなたの予言によれば・・・この戦いであなたは死ぬの?」

 シェリルの言葉にエリーは微笑んだ。

 「・・・・・・残念だけど・・・生き残るわ。かなり際どいところまで行くけど・・・最終的には生き残る。だから心配しないで。」
 「そう・・・」

 しばらく考えこんでからシェリルが結論を出す。

 「わかったわ・・・あなたは礼拝堂に一人にする。けど、アリエスくんもシーブスくんも礼拝堂のすぐ外で待機させる。もちろん、あなたの悲鳴やその他幻影の白孔雀とあなたとが会話以外の接触を持った時、その時は前隊員がシスティナ礼拝堂に向かって幻影の白孔雀を捕縛・・・できなければ殺害する。いいわね?」
 「もちろん。」
 「・・・わかったわ・・・坊や達。そういうことよ・・・礼拝堂の外で警備をして頂戴・・・」
 「「了解。」」
 「じゃ、解散・・・」



 シェリルの宣言と共に、全員が席を立ち、部屋から出て行く・・・
 その中で、たった一人・・・アリエスがエリーを呼び止める。


 「エリーさん・・・」
 「何?」
 「ちょっと・・・2人きりで聞きたいことが・・・」

 
 アリエスの言葉に、エリーは最後に部屋を出て行こうとしていたシェリルに目配せをする。
 気付いたシェリルは静かに部屋を出てからドアを出た・・・そこへエリーは間髪入れずに、カチャンと鍵をかける。

 「人払いはしたわ。」

 「ありがとうございます。」

 「それで・・・聞きたいことって言うのは?」

 「・・・・・・シロンのことです。」

 「・・・・・・」



  エリーが少しうなだれる。

 「失踪したって聞きました。憲兵がさんざん捜索したけど・・・行方不明だって・・・」
 
 返ってきた返答は頷きだった。
 僅かな間をおいて、エリーが語る。


 「・・・・・・2年前よ・・・あの子は突然どこかに消えたの・・・教会としても彼女の失踪届を出したわ・・・でも・・・見つからなかった。」
 「・・・・・・何か・・・知ってることありませんか?俺・・・約束したんです。必ずもう一回会おうって・・・」


 しかし・・・


 帰ってきた答えは首否だった・・・


 「残念だけど・・・私にもわからなかった。」
 「そうですか・・・」
 「でも・・・私は信じてるの・・・シロンは必ず生きてるって・・・」
 「・・・そう・・・ですよね・・・生きて・・・ますよね?」
 「えぇ・・・きっと・・・」






 そして・・・エリーが白孔雀と対面したのは・・・彼女の予言通り、7日後のことだった・・・。







   ※          ※          ※






 暗い夜だった・・・
 深まった秋の風は肌に冷たく乾燥していて、枯れ葉がカサカサと地面を這っていた。

 そして・・・

 美しくライトアップされた巨大な教会の周りは・・・黒い軍服を着た正規軍の軍人が大勢取り囲み、そして教会内部は男女それぞれ青赤の軍服を纏ったIMMの軍人。
 大広間ではレーナルドが・・・そしてシスティナ礼拝堂の前の扉ではアリエスともう一人の少年が睨みを聞かせていた。

 ソバカスの多い金髪の男の子で年はアリエスと同じ14歳・・・
 アリエスが腰に剣を帯びているのに対し、彼は身長の1.5倍程の長さの美しい装飾槍を持ち、まるで衛兵のように扉を警護していた。


 「シーブス・・・あんまり気張ると、いざという時に疲れてどうしようもなくなるぞ?」
 
 アリエスがその名前を呼ぶと、シーブスはカチコチと首をアリエスの方に回した。

 「そ・・・そうなんだけど・・・俺・・・戦場って言うか・・・その・・・実践初めてで・・・」
 「大丈夫。訓練と変わらない。IMMの訓練は基本隊員同士のバトルだろう?あれと変わらないって・・・それに敵はいかに幻影の白孔雀とはいえ、1人。倒せない敵じゃないって・・・俺とお前が手を組めば大丈夫だって・・・」
 「でも、僕より実戦経験多いリアーネは・・・」
 「彼女は、戦場で油断した・・・だから後ろから襲われたんだ。でも、今、俺達は油断してないし、後ろは壁だ。中に居るのはエリー様ただ一人・・・大丈夫だ。ケガも無く帰れるさ。」
 「そ・・・そうだよね・・・」


 幻影の白孔雀が魔導師である可能性については敢えて伏せた。
 ムダに緊張を煽っても仕方な無いし・・・それに・・・


 「緊張してる兵は・・・どんな兵にも劣る・・・」
 「え?」
 「フィンハオラン家当主の言葉だ・・・」
 「フィンハオラン当主って・・・伝説の剣士・・・シルバーニ様の?」
 「いや・・・起源をたどるともっと古いらしい・・・フォロン様の時期まで遡るかもしれないそうだ・・・」
 「初代!?」
 「化物みたいな人だったらしいけどね・・・でも・・・それだけすごかった人が残した言葉なんだ・・・きっとその通りだと思う。」
 「アリエス・・・」
 「シーブス・・・俺達で絶対聖女様守ろうな・・・」


 シーブスは力強く頷いた。







 大聖堂から数百m離れたとあるパン屋の屋根の上・・・
 そこで、双眼鏡のレンズが月の光に反射した。

 そこに居たのは3人の女だった。

 2人は年で言えばおそらく20代後半ぐらいの女性。双方ともにオレンジ色の髪で、一人は短髪、一人は長髪だった。
 だが、この2人・・・
 神聖アリティア帝國の仕官専用の美しい・・・しかし動きやすそうな黒の軍服に身を包み、立つ、その出で立ち・・・


 それは・・・2人ともまったく同じ顔だった。
 双子・・・そう言ってしまえばそれまでだが、顔にある泣きボクロが唯一左右対称であるため、一目見れば必ず印象に残る容姿をしていた。


 そしてその後ろ・・・
 そこに彼女が居た。
 

 純白の髪は月の光に照らされ、青白く光るセミロングの髪を夜風になびかせ・・・双子の少し後ろに立ち尽くしている。


 「狙うは大聖堂・・・」
 「狙うは聖女ただ一人・・・」



 双子が口々につぶやく。



 「ベネディクト少将言ってたね。」
 「お前ら2人はシルフィリアの監視だって言ってたね。」



 「でも、私たち2人で聖女を仕留めたら、きっと私たちもっと出世できるよね?クスクス・・・」
 「私たち2人でエリーを仕留めたら、きっと私たちもっとお給料もらえるよね?クスクス・・・」



 「じゃあ、私たち2人でやっちゃおう。」
 「私たち2人でエリーを殺しちゃおう。」


 そして2人は同時に後ろのシルフィリアを振り返った。


 「そういうわけだから、シルフィリア・・・」
 「あなたの出番は悪いけど無いの、シルフィリア・・・」



 対してシルフィリアは、


 「どうぞお好きに・・・」


 そう答える。

 「私の目的はあくまで聖女の抹殺。そして、私の姿を見た人間の抹殺・・・・・・つまり、私より先に聖女が殺されたとなれば、それはどうしようもないことです・・・。」


 「あら、意外と聞き分けがいいのね・・・」
 「意外と臆病なのね・・・」


 「極力人を殺すという労力を使わないで勝てる・・・それならば、私は喜んでその手段にすがります・・・魔術だって、運動ですから・・・疲れるんです。誰だって、人間なれば・・・疲れるのは嫌でしょう?・・・それに私はあなた達とは違って殺人に関してなんの快楽もありませんから・・・」


 「あらやだ・・・まるで私たちが快楽殺人者みたい・・・」
 「私たちはただの軍人。戦争で人を殺すのは当然じゃない・・・」


 「・・・・・・それで?あなた方がそう言うのであれば、私は一切手出しはせず、この屋根の上であなた方がエリーを殺すのを見ていることにしますが・・・一体あの警備が厳重な場所にどうやって侵入するつもりで?」



 「そんなの決まってるじゃない」
 「誰が決めずとも、決まってるじゃない」



 「「正面から・・・堂々と・・・」」


 双子はそう言って笑った。


 「「ただ、シルフィリア・・・観てるだけじゃ、なんにも面白くないだろうから・・・ひとつだけ仕事をお願いするわ。」」

 声をあわせて言う双子にシルフィリアは首をかしげた。

 「なんでしょう?」

 「情報がただしければ、中を警備しているのはあのIMMだから楽勝。」
 「寄せ集めの呼び名も高い、IMMだから楽勝。」


 「でも、外側に居るのは正規軍の貴族私兵団・・・」
 「私兵団はちょっと厄介・・・」


 「だから、私兵団だけなんとかして欲しいの・・・」
 「お城で言うなら、堀を埋めて欲しいの・・・」



 「・・・了解しました。」



 「じゃあ、5分後・・・外の敵を一掃して頂戴。」
 「一人残らず、一掃して頂戴。」



 「・・・・・・了解です。」




 そして5分後・・・空から白く美しい矢羽が雨のごとく降り注ぎ・・・
 外を支配してた400人を超える兵士たちは・・・


 いとも簡単に全滅したのだった。






   ※          ※          ※





 当然この知らせは、すぐに大広間で控えていたレーナルドの耳へと入ることとなった。


 「IMM全軍に通達。幻影の白孔雀のものと思われる攻撃により、聖堂外の勢力がすべて打倒された・・・最重要警戒態勢を敷き、白孔雀を見つけ次第、笛にて、全部隊を呼び寄せよ。その後、全員で幻影の白孔雀の捕縛、もしくは殺害を実行する」



 すぐさま全員に彼の言葉が通達される。

 しかし・・・

 レーナルドは正直侮っていた。
 まさか幻影の白孔雀が400人もの兵士を一瞬にして葬り去るとは・・・
 やられた兵士とて素人ではない・・・むしろ、貴族の私兵団だけあって、国軍の徴兵で集められた新兵よりもずっとずっと有能であるはずの兵士・・・
 そんな者達が、IMMへ何の伝令も無しに一瞬で消し去られた・・・

 その事実はとてつもなく大きい・・・

 すなわち400人がほぼ同時に消されたことになる・・・


 IMMはメンバーのほぼ全員が1人で100人分の兵士に値すると評価される“ストライカー”かあるいはそれに近しい人間のみで構成されている・・・
 だが、その一方で少年兵が多いのも事実・・・
 うかつに手を出せば、そんな将来有望な子供の未来をも一瞬で奪う結果となってしまう。

 それだけは避けなければならない・・・


 だが・・・



 400人を一瞬で消す・・・


 そんな事はシェリー様ですらできない芸当・・・


 それができる人物・・・居るとするなら、グロリアーナ家当主かフィンハオラン家当主・・・後は聖女ぐらいなもの・・・


 そんな・・・いわばエースオブエースに果たして勝つ術はあるのだろうか・・・



 そう、レーナルドが必死に思考を巡らせている時だった・・・



 ―!!!―


 一瞬感じた殺気にあわてて体を逸らし、後ろから放たれた何かを回避する。
 回避後、レーナルドの体を逸れて、壁に当たったものを確認すると・・・それは・・・一本のナイフだった・・・



 「誰だ!!」
 レーナルドが叫ぶ・・・

 すると、月明かりに照らされながら、エントランスホールへと続く外の巨大な門の両端にそびえ立つ巨大な柱の影から、まったく同時に2つの人影が姿を現した・・・。
 顔も背丈も着ている服もまったく同じだったことから、一瞬幻覚ではないかと思ったが、お互いの顔に唯一泣きボクロという相違点、そして僅かな仕草や呼吸の違いから、それが幻覚ではなく双子だという答えを導き出す。



 「貴様ら・・・ここがエーフェ皇国の国教にしてその総本山・・・システィナ大聖堂と知っての狼藉か!?」


 張り上げたレーナルドの声に双子は同時にクスクスと笑った。



 「狼藉だって・・・」
 「異国の人間である我々に狼藉だって・・・」



 2人・・・
 ということは・・・


 「貴様ら・・・幻影の白孔雀ではないのか?」



 「あんな奴と一緒にしないで。」
 「あんな腰抜けと一緒にしないで。」



 やはり・・・この2人幻影の白孔雀では無いらしい・・・

 しかし・・・

 敵がウソを付いている可能性だってしっかりと考えなければならない・・・
 もし、レーナルド自身が幻影の白孔雀であるのならば、絶対に自分がかの有名な殺人鬼であることは明かさない・・・告げたら、相手が油断することはなくなる・・・
 二つ名とは、弱者を逃げさせる反面、強者からは油断を奪う。
 自ら進んで強者をさらに手強くする必要はない・・・だから明かさない・・・

 でも・・・彼女たちはあんなヤツと言った・・・
 ということは別人という可能性も・・・

 レーナルドが必死に頭を混乱させながらも、終わらない問答に必死に頭を捻っていると・・・



 ピィーという甲高い音・・・


 近くから、響いたのは笛の音だった。すなわち・・・幻影の白孔雀を見つけたという・・・


 ―!!!―


 慌てて笛の音のした方向を向くと、そこに立っていたのは、衛兵だった。


 「何を勝手なことを!!」
 
 レーナルドの叱責に対して、衛兵の一人が今度は怒鳴った。

 「彼女が白孔雀であるにしろ無いにしろ、オンタリオ枢機卿の命を狙うのであれば、それは我々の敵です。捕縛、もしくは殺さねばなりません。あなたがたIMMも・・・幻影の白孔雀の捕縛ではなく、枢機卿をお守りするためにわざわざ皇軍から派遣されてきたのでしょう?なれば重点を置くのは、彼女たちが幻影の白孔雀かどうかというわけではなく、彼女たちが敵であるかどうかです。彼女たちは敵です。だったら、幻影の白孔雀であると仮定してでも、全軍で当たるのは当然でしょう?」


 ・・・・・・なるほど・・・これ以上無いぐらいの正論だった・・・


 しかし、なんだ・・・このものすごい悪寒は・・・
 何か忘れているような気がする・・・忘れてはならない何かを・・・


 だが・・・



 ゾロゾロと全速力で集まってくるIMMの兵士・・・


 今から命令撤回は出来ない・・・


 ならば・・・


 レーナルドは・・・今度は自分で甲高く笛を吹き鳴らした。

 そして、既に集まってきているIMMのメンバーに声を張り上げて言う。


 「立ち入り禁止の教会内に侵入したこの2人を捕縛せよ!!そして捕縛したい、出来る限り早く持ち場に戻れ!!」


 できるだけ、この自体を収集し、全員を持ち場に戻らせる・・・
 それが最善の選択・・・
 そう思っていた・・・レーナルド自身も・・・


 だが・・・まさか・・・
 これが幻影の白孔雀の侵入を許す引き金になるとは・・・予想していなかった。




   ※          ※          ※





 「招集の笛の音・・・行くぞ!シーブス!!」
 「あ・・・うん!」


 アリエスとシーブスがお互いの得物を構えて、急ぎ廊下を走り抜けて大広間へと向かうその時・・・




 アリエス達が警護していたシスティナ礼拝堂の中で・・・
 初めにその異変に気がついたのは、エリーだった・・・
 

 最も、礼拝堂無いには彼女以外誰も居なかったので気がつけたのも彼女以外にいるはずもないのだが・・・



 「・・・・・・そろそろ・・・姿を見せてはくれない?」


 礼拝堂の中央で正座をし、祈りを捧げながら、エリーが呟いた。


 「入ってきたのは5分ほど前・・・その短時間でこの部屋の扉の施錠術式をすべて書き換えた・・・それに、仲間を囮にして、警備のIMMを大広間に集中させ、自分は一人こっそりとここに侵入する・・・私ですら、施錠術式が変わったので初めて気配を感じたぐらいにね・・・一体何者?」
 「・・・・・・」


 その言葉に答えるように・・・その少女は本当に静かにその姿を現した。
 綺麗な純白の髪・・・この世のものとは思えぬほど美しく可愛い出で立ち・・・だけど腰には白鞘の刀を刺し、手には身長の1.5倍はあろうかという程に長い純白の装飾槍・・・


 「幻影の白孔雀さん・・・でいいのかしら・・・」

 エリーの口調にシルフィリアは静かに頭を下げた。

 「・・・・・・そうであってもそうでなくても、私が幻影の白孔雀かどうかなど、聞く必要も無いはずです・・・扉の施錠術式をすべて変更して、この部屋に私が居る時点で・・・私があなたの命を狙いに来たことは明白でしょう?今から殺される人間が・・・私の名前を知る必要がありますか?」

 冷たい氷のような視線・・・そのせいで周りの気温すら数度下がったかのような錯覚すら覚える・・・
 しかし・・・それですらエリーは一切顔色を変える様子すら見せない・・・
 むしろ少し微笑さえ浮かべながら、シルフィリアに語りかける。
 
 「まあ・・・ほら・・・今から殺されるなら、冥土の土産に殺された相手の素性ぐらい知りたいじゃない?」
 「・・・・・・」
 「それにね・・・幻影の白孔雀といえば、敵軍のエースオブエースじゃない?だから聞きたいことがあるのよ・・・」
 「それも冥土の土産ですか?」
 「かなぁ・・・それにエースなら国内情報に詳しいじゃない?・・・だからこそ聞きたいのよ・・・」
 「・・・・・・残念ながら・・・私が知っている情報など微々たるもの・・・おそらくあなたが欲しがっている情報は無いと思いますよ?」
 「まぁ・・・そう言わずに・・・たった一つだから教えてくれない?」
 「だから・・・私が知ってることなど・・・」











 その途端だった・・・
 空気が一瞬で変わった。
 エリーが微笑を一切捨て、冷酷かつ真面目な表情に一変したのだ・・・
 アリエスだったらきっとこういうだろう・・・
 “タルブの村で敵兵を一掃したあの時と同じだ・・・”と・・・





 ビリビリと空気が振動してるような・・・シルフィリアですら僅かに冷や汗と共に一歩後ろに引くほどに・・・
 そして、エリーは一言・・・そのシルフィリアにも負けない氷の声で彼女に問いかけた。































 「“シロン・エールフロージェ”って女の子・・・知ってる?」




















 シルフィリアは静かに顎に手を添えて、眼を閉じて何かを考える。

 「・・・・・・残念ですが・・・シロン・エールフロージェという名前は記憶にありません。」
 「本当に?」
 「・・・・・・知っていても、教えるつもりはありませんが・・・残念ながら真実です・・・シロン・エールフロージェって名前を私自身が聞いた覚えはありません。」



 「そう・・・」



 残念そうに目を伏せるエリー・・・
 そしてシルフィリアは静かに腰の白鞘を抜いた。


 「では・・・そろそろ・・・その生命(いのち)・・・頂戴つかまつります・・・」

 逆手に持った刀の刃がステンドグラスから浴びた光を浮けて7色に輝く。
 手に持った杖を魔術でその場に空中に浮かべ、刀を構え・・・少しずつ近づいていく。


 「・・・・・・本当に知らないのよね?」

 エリーが最後の確認をする。

 「くどいようですが知りません。」

 対し、そう答えるシルフィリア・・・
 するとエリーはスッと寂しそうな表情になり、「そう・・・」と短く言葉を吐く。
 そして・・・自らも静かに腰のレイピアに手を掛けた・・・


 「なら・・・申し訳ないけど・・・私だって簡単に殺されてあげるつもりはないの・・・」

 シルフィリアがクスッと笑う。

 「動かなければ痛みすら感じずに殺すこともできますが・・・動くと余計な苦しみが増えますよ?」
 「・・・・・・ここで私が殺されたら・・・外で殺された400人の命が無駄になる・・・」


 「予知能力・・・」


 シルフィリアが静かに告げた。

 「あなたは予知していたのではないですか?400人の・・・外にいる兵士が皆殺しになる結果を・・・」

 対し、エリーは静かに首を振った。



 「いいえ・・・残念ながら・・・この結果は予知できなかった・・・それどころか、あなたに関する予知が一切できないの・・・それがなんでかは私にはわからない・・・でも、きっとあなたが何かしらのイレギュラーだからじゃないかしら・・・」
 「・・・・・・」
 「これだけ離れていても感じる・・・まるで水飴のよう・・・なんて綺麗でなんて美しい魔力の流れ・・・高水準にまで練りこまれた魔力が体の中だけでなく、溢れでた魔力が体の表面を血液の如く流れている・・・人間ではありえない・・・精霊や魔族と言った方がいいのかしら・・・でも・・・精霊とは違ってきちんと実態もあるし、魔族と違って、魂というか魔力に禍々しさや汚れは感じられない・・・もしかしたら、あなたは天使・・・いいえ・・・神に近い存在なのかもしれない・・・だけど・・・」


 レイピアを抜き払ったエリーは静かにそれを斜めに構えた。



 「その神なり天使なりが・・・今は私たちの敵であり、私たちの仲間や友人を殺し、その家族を不幸にし、そして今後もそんな人々を多く生み出す幻影の白孔雀だというのなら・・・私は教会の掟を犯しても、あなたを殺す。それが私の・・・“武装聖女(システィナ)”の役目なれば・・・」


 「私を殺す・・・ですか・・・」
 「えぇ・・・私が・・・あなたを殺す・・・」
 「・・・・・・できるものなら・・・」



 そう言うやいなや、シルフィリアの姿が消えた・・・いや・・・正確に言えば、超高速で・・。超接近しての首への一薙・・・
 通常の人間なら反応すらできないままに首を跳ね飛ばされてる一撃・・・



 しかし・・・


 その一撃を与える前に・・・




 シルフィリアの刀が何かによってはじかれた・・・まるで壁のような・・・いや・・・今のは・・・




 あわてて距離をとるシルフィリアに再び・・・
 一瞬見えた空気中を舞う白い糸・・・それと同時に・・・















 体中に激痛が走った・・・







 見れば服が切断され、全身に切り傷が・・・





 「くっ・・・」



 あわてて杖の元まで行き・・・

 『回復(アールフェ)!!』

 短く呪文を唱えて、体中の傷を一瞬で癒す。
 そして刀を納め・・・静かに今度は杖を槍として構えた。

 純白の装飾槍の先端がエリーへと向けられる・・・



 「・・・・・・そういうことですか・・・」
 
 シルフィリアが短くささやく。

 「今のが・・・あなたが戦場で数十万の兵士をたった一人・・・たった一夜にして消したその秘密・・・」


 その言葉に答えることなくエリーは手元のレイピアを構えた。銀色の美しいスウェプトヒルトを持つ、非常に美しい装飾剣・・・




















 「・・・・・・舞い踊れ、 “アルウェン” !!」















 エリーが剣の名前と同時に大きく剣を振り、そして・・・再び空中に現れるのは先程の閃光の糸・・・
 超高速で飛んでくるソレをシルフィリアはまるで縫うように避ける。しかし・・・

 「うぐっ!!」


 それを含めてすら、シルフィリアの体には無数の傷が付いた・・・
 そして・・・



 その傷を見て、エリーの目が驚愕に染まる。
 なぜならシルフィリアから流れていた血はただの血液ではなかったのだ・・・
 赤い・・・それだけは間違いない・・・だが・・・
 その血液はまるで撒き散らされた夜光塗料の如く、自ら赤く発光していたのだ・・・
 まるでルビーを溶かした水の如く・・・美しい緋色に・・・


 「あなた・・・一体何者なの?」


 再び傷口を魔術で治癒し、シルフィリアは静かに呪文を唱えた。


 『三連射撃(トリプル・クイックドロゥ)!!』


 構えた指先から同時に3発の光の弾丸が高速でエリーに向かって放たれる。


 しかし・・・


 その攻撃は着弾寸前、今度は彼女の周りにいきなり現れた白い閃光の糸によって阻まれる。




 それを見てシルフィリアはやっと理解した。

 彼女のあの剣・・・確かアルウェンと言った・・・
 あれはつまり因果超越攻撃を行うことができるのだ。

 つまり、振っただけで過程を無視し、任意の空間内に発生する白き閃光と共に、『斬った結果』だけを残す。すなわち、振っただけで近くの物を無数かつ同時に斬撃することができる・・・


 そして・・・


 あの剣はどうやら持っているだけで装身者をも守るらしい・・・

 それも同時に3発を超高速で放つ先程の技を簡単に防いだ。

 ということはおそらく数千人が矢だの槍だの剣だので同時に攻撃したとしても彼女には傷ひとつ付けられないだろう・・・



 なるほど・・・



 奇跡の聖女・・・エリルティア・オンタリオ・・・



 名前ぐらいは聞いたことがあったが、まさかここまでとは・・・



 どうしよう・・・



 これでは勝ち目はかなり薄い・・・


 ただ・・・あの剣・・・ひとつだけ弱点があるのを見つけた・・・それを攻めることができさえすれば、まだ勝ち目はある・・・


 装飾槍を構え直し、


 『風速(ライナ)・・・』



 小さな呪文で足に風を纏わせて超加速。
 狙うは・・・一点・・・あれしかない・・・




  ※          ※          ※







 一方で、大広間では双子と20人程度のIMMが戦っていた。


 最初は本当に数分で終わるかに思えたこの戦い・・・
 しかし、思わぬ誤算が生じた。
 双子がそのコンビネーションによりその力を数倍に高めていることだった。


 それにいかに大広間とはいえ、屋内では20人がそれぞれ各々の力を出すというのはものすごく難しい。
 たった2人相手では一度に戦える人数は精々4~5人程度・・・
 これで双子のコンビネーションに合わせることになるのだ・・・それはとてつもなく力が均衡し、すぐに勝てるはずなのに勝てない勝負ということでIMMの面々を苛立たせた。


 しかし・・・


 そんな中で響いた音だったから、全員が驚いたのだ・・・
 エリーが一人しか居ないはずの礼拝堂内・・・そこから聞こえた爆発的な破壊音。


 つまり・・・


 誰かと誰かが戦ってる証拠・・・
 そしてこの状況で戦ってるとすれば・・・それは・・・
 

 聖女と幻影の白孔雀・・・




 「クソッ!!騙しやがったあの小娘!!」
 「何が興味が無いだ!!ペテン師!!」


 その音を聞いて慌てたのは双子の方も同様だった。
 

 「仕方ない・・・一度引こう・・・」
 「でも・・・」
 「あの小娘に先を越された・・・これでエリーが死んでも死ななくても、私たちの手柄は半減する・・・ここは一旦引いて、期を待ちましょう・・・」
 「あの小娘が成功すれば私たちはとりあえず彼女の支援と監視という任務は成功したことになる・・・失敗したら、改めて私たちでエリーを殺してその手柄にすればいい・・・」
 「そういうこと・・・」
 「・・・・・・引きましょう・・・」
 「・・・・・・えぇ・・・引きましょう・・・」



 そう語り合い、双子は静かに身を翻した。
 ワケも分からずその様子を見つめるIMM

 「レーナルド副隊長!追撃しますか!?」
 
 指示を求める声が響いたが、レーナルドはそれに首を振った。
 

 「いや・・・今は聖女の安全を!!全員、礼拝堂に迎え!!」


 その命令に全員が同時に「イエス、ユアハイネス!」と答えた。
 そして、怒号のような足音が響き渡り・・・総勢20人・・・途中で合流した人数も合わせると合計40人が一斉に大聖堂へと向かったのだった。





  ※          ※          ※



 どの攻撃がやばかったのだろうか・・・

 やはり先程、腹部をざっくりやられたのがまず駄目だった・・・左胸の下からおへそまでを真っ二つにされたせいで、血がダクダク溢れて止まらない・・・

 次に先程回避不能で切り刻まれた左手の指か?
 切り落とされては居ないものの、筋や腱はほとんどボロボロに切り裂かれ、左手の指はもはや傷がついてない場所を探すほうが難しい・・・
 回避する際に頭も何度も打ったし、受身も何度も失敗した・・・

 「もう一度訓練をやり直す必要がありますかね・・・」



 一方のエリーは一切の無傷だった。

 「もう・・・やめない?」

 そう言って、エリーは静かにレイピアを降ろした。

 「わかったでしょう?いくらあなたでも私に勝つことはできない・・・大人しく武器を捨てて投降してくれるなら、あなたの身は教会の名において守ってあげる。最も、監禁生活ぐらいにはなると思うけど・・・」

 「・・・・・・」

 「敵の言う事だから信用出来ないかもしれないけど・・・それでもあなたにとっても無意味な取引にはならないはずよ・・・」

 「・・・・・・」

 「私に勝てないことはわかったでしょう?なら、この条件・・・大人しく飲んでくれないかしら・・・そうすればとりあえず・・・あなたは生き残れる・・・運が良ければ・・・戦争が終われば、きちんとやり直すことだって出来るかもしれない・・・それだけの綺麗な容姿だもの・・・きっと普通の女の子以上楽しい毎日が送れるはずよ?」

 「・・・・・・勝てない・・・ですか・・・」


 シルフィリアがクスクスと笑った・・・


 「何がおかしいのかしら?」

 「・・・・・・そうでもないですよ?」
 「え?」
 「その剣は確かに最強の剣です・・・ただ・・・弱点があります・・・」
 「弱点?」

 「それに・・・」
 「それに?」




 『オーバードライブ・・・フォルマティオ・・・ルシファー・・・』


 シルフィリアがそう唱えると同時に、シルフィリアの様子が一転した・・・
 先程までの優雅なドレスとは一転し、パンツスーツに黒の漆黒のローブ・・・そして手には漆黒の刀・・・さらに特徴的なのはそのピンクサファイアに発行する瞳と腰から左右一枚ずつ・・・そして左背中からそれより一回り巨大なものが生えている漆黒の3枚の羽根・・・



 そして・・・先程とは違った禍々しい魔力・・・
 それこそ、魔族のような・・・




 「それに・・・わかったような事を言わないでください・・・私は・・・アリティアでしか生きられない!!」


 その瞬間・・・シルフィリアが消えた・・・
 いや違う・・・

 聖堂内に足音だけが響いている
 だが姿は見えない・・・本人自身が超高速で動き回っているのだ・・・

 対し、エリーは再びアルウェンを振りかざす・・・
 それと同時に飛び交う白い閃光・・・幾千にも折り重なるそれは壁や柱や床を切り刻み一瞬で灰と化す・・・だが・・・

 今度は、その攻撃がシルフィリアに当たることはなかった・・・



 「弱点その1・・・ 音速の4倍以上の速さを超える物体を捉えることはできない・・・また、切断するのはあくまで一定空間で、任意の空間ではない・・・故に、回避不可能ではない・・・」



 そう言って、シルフィリアは刀を握った手とは逆の右手の指輪の付いた人差し指をエリーへと向けた。

 『魔霧雨(ミスト)・・・』
 そう唱えると同時にエリーの周りに霧が発生する・・・
 さらに同時にエリーが咳き込んだ・・・


 「これは・・・ゴホッ・・・ゴホッ・・・ど・・・毒の霧・・・」
 「そう・・・弱点その2・・・その剣の防御方法はあくまで斬撃・・・つまり・・・水や霧は防御できない・・・」


 『体内和浄(ピュアラル)・・・』


 エリーが呪文を唱え、体内の毒を吸い出した・・・
 しかし・・・その一瞬の隙・・・それを突かれて、シルフィリアは彼女の真後ろに回りこむことに成功する。


 そして、エリーがアルウェンを持っていた右手の手首を掴み、その動きを完全に封じた。


 「そしてこれが・・・最初に私が見つけた弱点・・・・弱点その3・・・アルウェンはあなた自身が振ることにより斬撃を発する・・・つまり、音速の4倍以上であなたの背後をとり、あなたが刀を触れない状態にしてしまえば・・・もうあなたは防御も攻撃もできない・・・」
 「くっ・・・」
 「捕まえましたよ・・・聖女殿・・・」


 シルフィリアはそう言って、背中の羽根を一枚抜き取った。


 「“鴆”という鳥を知ってますか?毒蛇のみを主食とし、体にとてつもない猛毒を持つ鳥です・・・その羽根一枚で人ひとりを殺せるほどに・・・」
 「驚いたわね・・・まさかこんな簡単にアルウェンの弱点を見破るなんて・・・」
 「魔剣の能力を奢ったのがあなたの敗因です・・・」


 手に持った羽根の先がエリーの喉元へと突きつけられる。


 『己の犯した罪の果て・・・悠久の闇に眠りなさい』


 羽根がエリーの喉元へと突き刺さる・・・その直前・・・


 「眠るのは・・・あなたよ・・・」


 エリーは起死回生ともいわんばかりにアルウェンを取り落とし・・・そして・・・手首を返し、シルフィリアの手首をつかみ返すと・・・その後、彼女の体を腰に乗せて、一気に背負い投げ。一気に彼女を床に叩きつける・・・
 かと思いきや、彼女は空いている左手でなんとか体の重心を支え―大怪我をしている為、血が吹き出し、表情は苦悶に満ちていた―体操選手も真っ青の身のこなしで彼女との抜群の間合いをとって再び刀をかまえた・・・その間に、エリーもアルウェンを拾って構え直し・・・


 「やっぱり・・・あなたは殺しておくべきなようね・・・」
 「できるものならば・・・」


 再び戦闘が始まろうとした・・・
 その時・・・



 「よし!開いた!!」




 その叫び声と共にIMMが礼拝堂になだれ込む。


 「オンタリオ卿!!お怪我は!?」


 それだけでなく衛兵達もなだれ込み、すぐにエリーの周りを取り囲み、IMMも己達の得物を持って、構える・・・
 しかし・・・


 「・・・・・・いない・・・」


 エリーが辺りを見回すと、すでに彼女・・・幻影の白孔雀の姿は無かった。




 なだれ込んできた瞬間・・・慌てて天井の梁の裏まで跳躍し隠れたのは正解だった。
 なにしろ、この大怪我ではあの人数を捌ききる自信はない・・・
 それに残りの魔力もかなり限界・・・このままでは不利になる一方・・・

 なれば仕方ない・・・ここは引くしか・・・



 と・・・



 ―!!―


 その行動に心臓が止まるかと思った・・・
 黒い服に黒いフードまでして暗闇の中に居るというのに・・・



 唯一アリエスだけが自分の居る位置に正確に目線を送った・・・というか・・・
 
 目線が会った・・・

 しかも、一人遅れてきたくせに、扉から入って一瞬で・・・
 
 最初は偶然かと思った・・・でも・・・



 ―エリー様に手を出したら・・・殺す・・・―



 唇の動きが確かにそう伝えていた。
 

 だが、今なら誰にもバレていない・・・・・・それにきっとこちらの姿も見てなかっただろう・・・ならば気配だけで察知したということか・・・
 だが・・・見られてないなら殺す必要はない・・・

 それにそろそろ夜明けだ・・・
 引くなら闇に紛れられる今のウチだろう・・・




 シルフィリアは静かに礼拝堂の窓を開け、退散した。


 そして残されたエリーはただ一言・・・




 「アリエス君・・・ごめんね・・・シロンのこと・・・なんにもわからなかった・・・」
 「え?」



 思わず聞き返してしまう。確かエリー様はシロンのことは何も知らないと言ったはず・・・
 それなのに・・・


 「何があったんですか?」
 「・・・・・・少し・・・場所を移しましょう・・・」











   ※          ※           ※







 夜が明けてから全員が軽い仮眠を取り、そしてエリーの執務室にアリエス、シェリー、レーナルド、ジョーカーの4人だけが呼び出され集められた。

 もちろん、話題はシロンの事・・・

 「エリー様・・・教えてください・・・シロンに一体・・・何が・・・何があったんですか?」

 アリエスの質問にエリーはひたすら視線を背け、何かを隠し続けて居た。


 「エリー・・・」


 シェリルがソレに対し、腕組みをしながら流し目を送る。


 「アリエス君はもう半年以上もシロンを探していたのよ・・・知ってるなら、なんでもいいから教えてあげて頂戴。」



 それにエリーは黙って今度はうつむいてしまった。


 「オレが話してやろうか?」


 唐突にジョーカーがそうつぶやく。


 「ジョーカーさん!あなた!何か知ってるんですか!?」


 アリエスの言葉に彼は静かに頷いた。


 

 「とある筋から仕入れた情報なんだが・・・不確定かつ、アリエスには辛い話になるから伏せていた・・・だが・・・現在の聖女の様子を見る限り、あれはどうやら確かな情報だったようだな・・・」
 「あの情報って・・・」









 「教会の奴隷売買への関与だ。」






 ジョーカーの一言に、エリー以外の全員が驚愕し、彼に詰め寄る。

 「ジョーカー!!どういうこと!!?」

 シェリーの慌てた一言に彼はため息混じりに答える。

 

 「商売ですよ・・・シェリー様・・・」
 「商売!?」
 「表向きは、神託を受けた信者の神様に決められた結婚だの貴族の家への養子縁組だのだが・・・その実は、エーフェ聖教会が、多額の寄付をした豪商や貴族の元に見目麗しいシスターを奴隷の如く売買する行為・・・・・・」
 「宮廷だけでなく、教会まで腐ってたのね・・・」


 シェリルは静かにため息を付き、手で額を抑えた。

 「どうなの?エリー・・・」

 彼女の言葉に聞かれた本人は静かに頷く。



 「じゃ・・・じゃあ、シロンは・・・」


 アリエスの言葉にもエリーは静かに・・・本当に申し訳なさそうに頷いた。



 「アリエス君とわかれた後、私はシロンと中央教会に入って、中央教会の所属となったの・・・そしてその後2年は本当に幸せだった・・・でも、アリエス君も知ってる通り、あのタルブ農村襲撃事件を皮切りにエーフェ皇国とアルフヘイム連合は戦争に突入して・・・私も戦争に出ないわけにはいかなくなったの・・・それで、シロンを残して北方戦線に出向いた・・・そして・・・一週間の戦闘を終え、帰ってきたときには・・・シロンが行方不明になっていたの・・・もちろん、私はその後、さんざん探しまわったわ。協会関係者にも話を聞いた。もちろん幹部にも・・・でも、何の情報も無かった。特に幹部は『知らない』だけならともかく、『ストレスによる家出だ』とまで言われた。怪しくなった私は個人的に調査を断行した。そして見つけたのが・・・教会による豪商貴族へのシスターの売買・・・」
 「じゃ!!じゃあシロンは!!」
 「関係者の一人を捕まえて個人的に制裁を加えたら、洗いざらい吐いたわ・・・私の居ない隙をついて彼女を誘拐したって・・・彼女を奴隷として買い取ったのは西に領土を持つコーデル男爵・・・そして、彼を問い詰めた結果・・・再び教会関係者によって、アルフヘイム連合のどこかの国へと売られたらしい。」



 それを聞いて全員が黙ってしまった。
 酷い・・・酷過ぎる・・・


 そして・・・全員の視線がアリエスへと向いた。


 「アリエス・・・」

 シェリルの呼びかけにも、アリエスは固まったまま動かない・・・
 ソファに座ったまま、俯いて・・・まるで・・・そう・・・泣いているかのような・・・


 「アリエス君!本当にごめんなさい!私がしっかり監督してれば・・・こんなことにはならなかったのに!!」
 「・・・なんで・・・最初に会ったとき、嘘付いたんですか?シロンの事・・・知らないって・・・」
 「・・・それは・・・」
 「国家機密だからですか?それとも教会が人身売買を行っていたという事実を隠す為にですか・・・?」
 「違う!その・・・怖かったの・・・行方不明のシロンをあなたが探しているのは知ってた・・・だから・・・その・・・アルフヘイム連合のどこかの国に売られたって知ったらきっと・・・絶望するって思ったの・・・それに・・・一番嫌だったのは・・・4年間もずっと会いたかったあなたに会ってそうそう、こんな話はしたくなかった・・・私は・・・あなたが生きていてくれたって・・・それだけで凄く嬉しかったから・・・」

 「・・・・・・」

 「恨んでくれていいわ・・・嘘を付いたのも私だし、シロンを奪ったのも私よ・・・あの時・・・私はシロンを連れて行くべきだった・・・そうすれば・・・こんな事にはならなかったのに・・・」


 「・・・・・・」


 顔を両手で覆い、泣き出しそうになったエリーの両肩をシェリルがそっと抱きしめる。


 「アリエス・・・私が言えた義理じゃないけど・・・」
 「わかってますよ・・・」


 そう言ってアリエスは顔を上げた。
 それは泣き顔ではなく笑顔・・・しかし・・・もう無理矢理笑ってるのが誰にでもわかるほどにボロボロな・・・

 「エリー様は悪く無いです。悪いのは全部教会の腐った上層部・・・それに抗おうとしたエリー様はすっごく立派だと思います・・・それに、エリー様は今まですっごい苦しんできたんだから、これ以上苦しむことないんですよ!大丈夫!シロンは生きてます!2人で助け出しましょう!!」
 「アリエス君・・・」
 「あ・・・すいません・・・すっげー眠い・・・ごめんなさい・・・すっごい眠いや・・・オレ、ちょっと寝てきますね!教会のベンチ使っていいでしょう?」


 すべてが独り言のような早口だった。

 そしてアリエスは一人、その部屋を出ていったのだ・・・ただ・・・近くのトイレの個室から漏れる嗚咽の声は駄々漏れだったけど・・・



 「・・・・・・頑張ったな・・・アリエス・・・」
 

 レーナルドが静かに呟いた。

 「自らが大嫌いな国家の犬になってでも探し出したい女の子の居場所が・・・まさか敵国のどこかとは・・・」
 「しかも・・・生きてるかどうかもわからない・・・」


 ジョーカーも気の毒そうにつぶやく。
 そもそも戦争中に敵国人が敵国で生きるということ自体難しいのだ。
 迫害、奴隷化、拷問、処刑・・・生きている確率などほとんど無いに等しい・・・
 それでもアリエスは必死に笑ったのだ・・・14歳の少年だというのに・・・


 「エリー・・・そのシロンを敵国に売り飛ばす手引きをしたって教会の人間を問い詰めて、誰かを白状させるってことはできないの?」
 「無理よ・・・彼は10日ぐらい前に幻影の白孔雀の手で殺されてる・・・それに彼が手引きしてたのはシロンだけじゃない・・・教会のシスターだけでも数十人は居るらしいわ・・・」
 「そんなに・・・」
 「それに、今回の件・・・多分教会だけじゃない・・・何しろ、敵国の人間が戦争の最中、皇国内部に忍び込み、人身を売買して再び敵国に帰るなんて・・・そんなのは・・・」
 「国家がなんらかの手引きをしてるのに間違いはないわね・・・」
 「シェリル・・・」
 「わかってる・・・国家の方は私に任せて。絶対犯人をあぶり出してやる・・・あなたの仕事は教会内でこれ以上の被害者を出さないことよ・・・」
 「えぇ・・・わかってる・・・」
 「ジョーカー・・・出来る限りの情報を集めて頂戴・・・」
 「Yes….Her MAJESTY」


 「後・・・幻影の白孔雀についても調査を進めて・・・」

 付け足されたシェリルの言葉にジョーカーは目を丸くした。


 「でも、シェリー様・・・彼女はシロンについて何も知らないと・・・」
 「そうなんだけど・・・何か引っかかるのよ・・・お願い。」
 「あ・・・もちろん。」


 

 「なんにしても・・・まずはこのくだらない戦争を終わらせないとね・・・その後で・・・国内は全部掃除してやる・・・」



 だが、その日・・・
 誰も・・・戦ったエリーですら気がつくことはなかった・・・


 彼女が・・・幻影の白孔雀が・・・
 シロン失踪に深く関係しているということを・・・



 そしてソレを知ったとき・・・アリエスが更に深い絶望へと叩き落とされる結果を迎えるということも・・・





 すべてを知ることになるのは・・・もう少し先の話だった。



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