スパイラル〜推理の絆〜 第一巻
○第一話 踊り場の見えざる手(前編)
何十回も繰り返し読んでしまったからなのか、この回の感想は「地味だなぁ」というものだったりします。いや、当時はすごく面白がって読んでいたのですけどね。
ただ、冒頭の『推理せよ』のアオリ(?)は、未だにこの作品への期待感を抱かせてくれます。なんというか、劇場版のような格好よさがあるんですよね。
で、冒頭のシーンは歩が見ていた2年前(清隆が失踪するとき)の夢、というお約束の展開。でもこういうお約束って使いやすいんですよね。効果もありますし。
次のページでは早速ベタな感じで事件が起こります。転落死です。痛そうです。いきなり犯人扱いされる主人公。姉に取り調べを受ける主人公。……姉が刑事だからって身内に取り調べをされるなんて、不幸にもほどがあります。まあ、実際に取り調べをしているのはほとんど和田谷ですけどね。
そしてまどかいわく『観察力の足りない』和田谷、まどかに指示されて歩の苗字を調べます。そして歩とまどかが姉弟であることが判明。……和田谷、いたたまれません。そりゃショックを受けようってもんです。僕にもこういうところがありますから、妙に共感してしまうんですよね(涙)。
さて、あわれな和田谷はそのままに、シーンは変わって鳴海家。カレーです。歩、まどかの怒りを買うと分かっていてなおレトルトカレーを夕食に出しています。犯人扱いされていなければ今夜は『地中海風ブイヤベースに山菜リゾット』だったそうです。犯人扱いされた歩のささやかな反抗でしょうか。まどか、目に涙すら浮かべながら歩につかみかかっております。まどか、あわれ。でも未だ犯人扱いされたままの歩のほうが、もっとあわれ。
そんないざこざがありつつも、話はシリアスな展開に。歩、自分に不利な状況だというのに、余裕です。余裕の笑みを浮かべています。幼い頃からいくつかの事件を解決してきた(小説版を参照)歩にとってはこの程度のことでは動じないのでしょう。現に直後、兄・清隆の面影をちらつかせます。でもそれ、彼にとっては不本意なんだろうなぁ。
またもシーンは変わって、学校の第2音楽室。日時は翌日の放課後になっています。ピアノを弾きつつ、歩の回想が入ります。兄・清隆は歩にとっての理想像。マテリアルゴーストの神無鈴音にとっての姉・深螺のような存在。清隆、歩の中では美化されてるんじゃ、と思うほどの清隆のすごい活躍っぷりが歩によって回想されていきます。きっと『清隆はすごい人間なんだ』と読者に思わせるためなのでしょう。清隆はそれほど全知全能ではないと僕は未だに思っているくらいですし。
さてさて、唐突に開くドア。ピアノを弾くのをやめて、弾かれるように立ち上がる歩。この物語のヒロイン、結崎ひよのとの邂逅が訪れます。しかしこれほど主人公にないがしろにされているヒロインも珍しいでしょう。まあ、城平先生はまどかをヒロインに、と考えていたらしいので、ひよののこの扱いは当然のことらしいのですが。
主人公、都合よく情報をもたらしてくれる存在――ひよののおかげで、歩を犯人だと言い放った人物――野原瑞枝のところへ辿りつきます。というか、ここでひよのがいなかったら、見つけるまでに相当な時間とページ数を費やしていたのではないでしょうか。どこか抜けているなぁ、歩。でも、そこがいいのでしょう。完璧な人間なんてつまりません。
「俺が言いたいのはこれだけだ。あんたのトリックは俺が解く!!」
歩くん、ここで一発ビシッと決めました。主人公らしく。思えば彼、ここまで主人公らしいことをひとつもしていなかったのですね。でも現実に校内で口にしたら恥ずかしいことこのうえないセリフです。基本、城平先生のセリフにはこういうのが多いのですよね。文字で読む文には問題ないけれど、実際に口にしたらものすごく恥ずかしいセリフばかりです。
シーンは変わって事件現場。ひよののもたらす情報から考えを巡らす歩くん。被害者が片思いしていた人物――辻井郁夫のことが判明します。でも状況は『名探偵の能力を持つ少年のところに。『偶然』重要な情報をもたらしてくれる女の子が現れる』という『一人の人間に二つの特別が確認されている』というもの。名探偵ならそこも少しは疑ってみるべきなんじゃないでしょうか、歩くん。
どうやら被害者はなにかの事件に関わっていて、口封じのために殺されたようです。口封じのために殺されるなんて、僕だったら絶対イヤです。まあ、誰だってイヤでしょうけど。
「……なるほどな。これが真実の旋律か……」
真相に感づいて、そんなことを呟く歩。やっぱり実際に口にしたら恥ずかしそうなセリフです。ともあれ、じゃあ犯人の使ったトリックは? というところで第二話に続きます。でも第一話と第二話は確か、同じ号に載ったんですよね。コミックスでは言わずもがなです。
○第二話 踊り場の見えざる手(後編)
この回、歩が『真相がわかった』っぽいことをまどかに電話で伝えたようですが、そのシーンで『あれ?』と思ったのを未だに覚えています。
「……やっぱり、『名探偵』と呼ばれたあの人の弟……か……」
とまどかが心中で呟くシーンがありますが、僕は「でもまどかはその歩の姉――つまりは清隆の姉なり妹なりにあたるんだよなぁ……」と思ったものです。
いや〜、その後の展開を見て、納得しましたけどね。なんでまどかは歩のことをそんな『すごい人間』のように評するのか。
それはいまは置いといて。次ページからの展開はけっこう速いですね。歩による野原瑞枝への呼び出しの手紙。そして屋上での『ひよの劇場』。
この辺りはもう何度も読んだので、正直、飽き気味です。この作品は第2巻の第七話辺りからが面白いのですよ。この辺りのストーリーはそれほど魅力的ではありません。いやまあ、もちろん、その辺の推理マンガに比べれば、ずっと面白いんですけどね。
ともあれ、推理を語っている最中にサングラスを取り出し、かける歩くん。ハッキリ言って、似合ってません。本人もそれは自覚しているのか、少し恥ずかしそうにサングラスを外します。素で恥ずかしい決めゼリフを連発している歩がこの程度のことで恥ずかしがるなんて、ちょっと意外。
しかし、ひよのの「とっちゃうんですかー」という発言はどういう意図からきたものなのでしょうか。彼女はあのサングラスが歩に似合っていると思っていたのでしょうか。いや、それはないでしょう。彼女のことですから、きっと、ただの嫌がらせに違いありません。それがひよのというキャラですからね。
さて、歩はそんなひよのを無視し、呆れかけている野原瑞枝をも無視し、自分の推理を語り続けます。すぐさまシリアスな空気を作り出せる歩のスキルにカンパイ。
そして推理も後半。なにを思ったか、歩はいきなり野原瑞枝の手をグイッと引っ張ります! これを「セクハラだ!」と思った方、割と多いのでは? まあ、僕はちっとも思いませんでしたけど。
まあ、彼の『セクハラ』に関してはいずれ機会があったら触れるということで、とりあえずは保留しておきます。
さてさて、ついに出ました、歩くんの恥ずかしい決めゼリフ! ビシッと野原瑞枝を指差して、
「あんたが犯人だ!」
そして野原瑞枝からも出ます。あの王道的なセリフが。
「……証拠は?」
もしもし、野原さん? それを言っちゃあいけません。そのセリフは真犯人が言うものと決まっているのです。いわば、そのセリフを言ったことそのものが証拠――もとい、犯人である根拠になりかねないのですよ。
しかしそこは突かずに(当然か)あくまでも論理的に彼女が犯人であることを告げる歩。……いや、歩はここではなにも言ってませんね。追い詰めたのはいきなり屋上に現れたまどかでした。いくら連絡を受けていたからって、また、なんて絶妙なタイミングで……。このシーンを見たときは、「ああ、やっぱりマンガだなぁ」と思いましたよ。ええ。
そしてまどかによってついに口にされる言葉、『ブレード・チルドレン』。危険な子供、という予感たっぷりの単語ですね。実際危険ですし。
しかし野原瑞枝は決定的な証拠がないのをいいことに、
「何を言ってるんですか? 訳がわかりません。失礼します!」
などと言ってその場から立ち去ります。決定的な証拠がないのは事実なので、まどかも追いません。そしてようやくしゃべりだす歩。しかし彼、
「ねーさん……俺は……」
のあとになんて言おうとしてたのかなぁ。野原瑞枝の悲鳴のせいで中断しちゃったんだよなぁ……。まあ、単に深刻な雰囲気を漂わせただけなのかもしれませんが。
それはそれとして、悲鳴に反応して駆け出す歩たち。目撃したものは左胸に矢が刺さって倒れている野原瑞枝の姿でした――。
○第三話 アポロンの矢
事態はけっこう緊迫しているはずなのに、歩にまったく危険が迫っていないからなのか、のほほんとした心持ちで読んでしまいました。
それにしても、ここで目を引くのが、歩がトリックを見破るまでのページ数。なんとたったの6ページで見破ってます。これは推理ものとしては過去最速なのではないでしょうか。
そして鳴海家でゲームをしているまどかさん。格ゲーのようですが、ハードがプレステとは、なんだか時代の流れを感じさせます。そういえば前回の携帯電話もそうでした。
翌日の月臣学園にて、見当はずれな推理をしている和田谷。歩がトリックをあっさり見破っているだけに、和田谷はちょっと滑稽に見えました。彼が刑事でいられるのは一体あとどのくらいなのだろう……。
まあ、そんなことはどうでもいいとして。
またも翌日。解決編のスタートです。ここでの一番の見所は間違いなく、犯人のセリフでしょう。
「矢からあなたの指紋が出てるのよ」
とハッタリもどきをかますまどかに返した、
「嘘だ……っ! ちゃんと吹き取……っ」
というセリフ。古典的な、間抜けな犯人だなぁ、と思ったものです。まさか城平先生がこれをやるとは……。
まあ、ともあれこの事件の真相は判明しました。でも『ブレード・チルドレン』に関する謎はまったく解けていません。むしろ深まってさえいます。
でも一応、新たな手がかりは提示されています。
それは『死の聖樹館』。……嫌な名前です。その名をつけた人のネーミングセンスを疑いますよ、まったく。
ともあれ、次回から新展開となりそうです。
○第四話 ウォード錠の密室(前編)
全三話で構成されている『ウォード錠の密室』の問題編です。
はっきりいって、王道すぎて面白くありませんでした。感じとしては、『名探偵コナン』に近いです。まあ、あれよりも状況説明はずっと親切でしたけど。
ともあれこの回は、ひたすら解決に導くための情報を提示することに終始していました。それだけにつまらない。
『ダイイング・メッセージ』に「四人に絞られる容疑者たち」。どちらもありふれたものです。
お話のメインとなっているのもまどかで、これまた主人公が活躍する物語が好きな僕の欲求不満をあおります。
今回の見所は、実際に言ったら恥ずかしいったらありゃしない、歩の決めゼリフ、
「……『ブレード・チルドレン』のことだ。知らないとは言わせない」
でしょうか。
実際、何度も読んでしまうと、もう本当に『退屈』以外の感想が出てこないのですよ。いや、本当に。雑誌掲載時の評判もかなり悪かったようですし。
まどかは最後「単純な時間差トリック」と言っていますが、この推理もどこまで信用できるものやら……。
そんな感じで次回『ウォード錠の密室(中編)』に続きます。
でもこのとき、まどかの推理を予想することはしなかったんですよね。だって、同じ号に『ウォード錠の密室(中編)』は載ったんですから。
○第五話 ウォード錠の密室(中編)
なんだか歩の落ち込みモードから始まっていますが、そのあたりは上手くはぐらかされて、自信満々のまどかの推理が始まっています。
しかし、この王道といわんばかりの推理はいかがなものでしょうか。ひとりずつ、確実に消去法で消していき、最後にひとりを追い詰める。う〜ん、本当に王道です。
それにしてもここの館の主である白長谷 雷造(しらながたに らいぞう)さん、性格悪いなぁ。自分がやってないことは誰よりも知っているんだから、早い段階でそう言えばいいのに……。
おかげでまどかは推理をミスってしまいます。でもまあ、彼が盲目であると気づける要素はいくつかあったので、これは単純にまどかのミスですね。こういうフェアな展開、僕は大好きです。
蛇足ですが、僕はこれを読んで以降、サスペンスドラマなどで首にぶら下げるタイプの時計を見ると、必ず『トーキング・ウォッチだ!』と予想するようになりました。でもって、これが本当によく当たるのです。しかもその事実がけっこう事件の真相に迫るものだったりするのですよ。
さて、話を戻しましょう。雷造さんが盲目だと知り、詰まるまどか。しかしそこにタイミングよく主人公・歩が現れます。ううむ、タイミングよすぎです。これこそまさに王道。ある意味、このタイミングのよさは主人公にのみ許された特権と言えそうです。
そしていよいよ歩が真相を語る、というところで話は次巻に続きます。そう、『次回に』ではなく『次巻』に続くのです。まあ、月刊誌であった当時は、別に次回に続くのとおおきな違いはありませんでしたけどね。
作品の感想に戻る